試合後に即交流会→表れる“知らない一面” 敗戦でも…小学生の「最も財産になる」20分間

文:磯田健太郎 / Kentaro Isoda

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岩手県で行われた「エンジョイ!軟式野球フェスティバル2026」

 スポーツの価値は、勝ち負けだけではない。人間的成長を大きく後押しするものだ。公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)が主催する「エンジョイ!軟式野球フェスティバル」が岩手県を舞台に8月8日〜11日の日程で開催された。元々は「全国スポーツ少年団軟式野球交流大会」(全国スポ少)の名を冠し、1979年から続く歴史ある大会だが、昨年大会から名称変更や出場機会を創出するためのルール変更など、勝利至上主義から脱却する大会へと姿を変えようとしている。中でも、試合後に対戦チーム同士が交流する「アフターマッチファンクション」(以下AMF)は、指導者や保護者を中心に注目を集めている。実際に経験した現場の声を聞いた。

 AMFは、試合終了20分後に行われる。直前までグラウンドで戦っていた両チームが興奮冷めやらぬ中、屋内の一室に集まり、5つほどのグループに分かれ、膝を突き合わせて20分間交流し合う。最後には各グループから1人が手を挙げて交流の内容を発表する。元々はラグビーで行われてきた文化だ。

 ファシリテーター(調整役)が子どもたちを前に、最低限のルールを説明する。「野球のことでも、みんなの街のことでも、流行っていることでも、なんでも話してオッケーです。ただし、話をきちんと聞いたら拍手をしましょう。発表する人は勇気を持って話してくれていますからね」。加えて、指導者や保護者の発言は、交流や発言に影響を与えてしまうため厳禁だ。

 敗けてうつむく選手もいたが、AMFが始まると小学生らしく自己紹介を切り口に活発に話し始める。「好きな食べ物は麻婆豆腐です」「僕たちのチームは北海道の西の方で……」「岡山は広島の隣だよ」「札幌から旭川くらい?」「ジンギスカンって何?」など、さまざまな話題が飛び交う。他にも「センターですよね? ナイスプレーでした!」のように、相手を称賛する声も聞こえてきた。

 最後の発表の時間では緊張する選手もいる中、全員が耳を傾け、ルールの通り拍手で称えた。発表した邑久リーガーズ(岡山)の濱村陵馬選手は「いろんな話ができたし、言葉の感じも違ったのが面白かった」と、文化交流を楽しんだ。

 広野ジュニアーズ(京都)の谷口輝選手は「学校の授業で手を挙げることはないけど、野球のことなら話せると思って、勇気を出すことができました。緊張したけど、みんなが聞いて拍手してくれるので嬉しかった」と、普段とは違う一面を発揮できたようだった。母親の智子さんも「野球を始めてから頼もしくなってはいたけど、発表したなんてびっくりです。自分の気持ちをちゃんと伝えられる子になってほしいので、いい時間になったと思います」と、笑顔を見せた。

AMFで成長するのは選手だけではない…指導者や保護者にも“好影響”

街の特徴からプレーの称賛まで様々な話題が飛び交う【写真:磯田健太郎】

 AMFは選手だけのものではない。保護者や指導者にも好影響を与えたようだ。広野ジュニアーズの北村忠滋監督は、谷口をはじめとした選手たちに「自分で手を挙げて喋れるんやと驚きました。僕らが見えていない、気がついていない部分も見えたので非常に良かったです」と話した。

 この日の試合では5-12で敗れたものの、子どもたちが切り替えて積極的に発言しているのを見た釜石野球団Jr.・大瀬優輝監督は「『絶対に怒らないから意見があるなら言いなさい』と伝えてきたおかげかもしれません。子どものうちにこんな時間を過ごせるのは、最も大きな財産になると思います。SNSで繋がることもできる時代なので、『あの時喋った子がプロになってる』ということもあるかもしれないですし」。釜石野球団Jr.の選手たちは、AMF終了後に交流した広野ジュニアーズの選手と肩を組んだりじゃれ合う姿も。勝利は掴めなかったが、それ以上の価値を手にしたようだった。

 現地で試合とAMFを見届けた、日本スポーツ少年団本部長の益子直美さんは、選手が自ら手を挙げて発言する様子を見ながら、怒られてばかりのチームだと、指導者の顔色を窺ってしまうのでこうはならないと語り、「子どもの成長力、吸収力はこんなに素晴らしい。勝つために“押さえつける”指導が、その機会を奪ってしまうことに、多くの指導者の皆さんが気づいてほしいと、この大会のあり方を通じて発信し続けていきたいですね」と続けた。

 AMFは全日本軟式野球連盟が主催するNPBガールズトーナメントで2023年に実施され、全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントでも導入。益子さんは、「AMFを全国大会だけじゃなくて、地方大会のような裾野に広めていきたいですよね」と思いを口にする。スポ少の“全国大会改革”は、着実に一歩ずつ歩みを進めている。

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