静岡裾野シニアの指揮官は「外野の前に落ちる可能性の方が高い」
もしかすると、来年からの高校野球のモデルケースになるかもしれない。中学硬式野球の日本一を決める「第17回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」では、試験的に反発性能を抑えた金属バットを導入。大会前に出場全32チームに提供(各チーム4本)し、大会ではこのバットのみを使用した。2024年春からの導入が決定している高校野球より一足早く低反発バットで公式戦を行ったが、「10メートルくらいは違う」「真芯に当たれば以前と変わらないけど、ちょっとでもズレると飛距離が落ちる」「外野を超えたと思った打球が急失速する」といった声が多く聞かれた。
「飛ばないバット」の影響は1回戦から色濃く出た。16試合中、無得点に終わったチームは昨年の4から8チームに倍増。そのうち1-0の試合が5試合と、白熱した投手戦が続出した。2桁得点を挙げたチームはなく、4回以降10点差で成立するコールドゲームは2試合からゼロになった。この数字を見ても、低反発バットによっていかに得点力が落ちたかがわかる。
それまで培った方針を変更したチームもある。静岡裾野リトルシニアは、これまで深く守らせていた外野のポジショニングを、通常より前にした。佐藤裕徳監督は「外野の後ろに打球が抜けるよりも、前に落ちる可能性の方が高い。特に下位打線は前に守らせて対策をしました」と意図を説明する。
打撃面に関しても意識は変わった。「足とバントを使わないと、あまりヒットがでない。長打がなかなか出ないので、そのへんは多く使っていくよと選手には話しました」。16日の福岡志免ボーイズとの1回戦では1-0だったが、17日の宇和島ボーイズとの2回戦は4盗塁と足を絡め、9-2で大勝した。
4番の杉山育夢捕手(3年)は、前に守る外野のポジショニングを逆手に取った。宇和島ボーイズ戦の7回、センターオーバーの当たりで迷うことなく本塁を陥れ、ランニング本塁打とした。「ちょっと外野が前にきているなというイメージがありました。ホームランを打てるバッターではないので、よりライナー性の打球を打つことを意識しています」。外野のポジショニングを前にすることで単打を防ぐメリットはあるが、長打が生まれやすくなるリスクもはらんでいる。
近年は中学生も、体格や筋力の向上などで打者の打球速度や飛距離がアップ。投手や内野手が怪我をする危険性が高まっているため、高校野球に続いて本格導入される日が、いずれ来るかもしれない。打者もしっかりとバットの芯で捉えることが要求されるため、打撃技術の向上も期待できる。ただ、戦い方をガラリと変える必要が出てくるのかもしれない。