学童野球で順守されない「変化球禁止」 球審を困らせる“球種”…広がるグレーゾーン

更新日:2026.05.11

文:鈴木秀樹 / Hideki Suzuki

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全日本学童大会都予選の会議で“異変”…「変化球の禁止」を長時間説明

 毎年、取材している高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント東京都予選の組み合わせ抽選会である、監督主将会議を今年も取材した。真夏の全国大会を目指す学童(小学生軟式)野球選手たちの真剣なまなざしはまぶしく、見ているこちらも気持ちを新たにさせられる集まりである。

 選手たちは当然ながら毎年、入れ替わるものの、会議自体は決まった流れで、新鮮味には欠ける。ただ、今回は例年と違う一幕もあった。

 審判からの諸注意の中で、「変化球の禁止」という説明にかなり長い時間が割かれたのだ。この会議は10年以上にわたって毎年、取材しているが、過去に「変化球の禁止」に触れていた記憶は一度もない。

 シーズン開幕前、試合現場で耳にしていた話題があった。年明けに全日本軟式野球連盟(JSBB)から審判員に向け、学童野球の変化球禁止を徹底するべし、という旨の通知があったのだという。

 言うまでもなく、学童野球では変化球が禁止されている。公認野球規則とは別に、JSBBが定めた軟式野球独自の規則集「競技者必携」の2026年版にはこうある。

「関節の障害防止のため、まだ骨の未熟な学童部の投手は変化球を禁止する。投球が変化球かどうかは球審の判断による」

 広く知られたルールであり、実際、試合で球審が変化球を指摘する場面を目にしたこともある。

 変化球とみなされた投球は「ボール」が宣告され、監督と投手は注意を受ける。それでも再び変化球が投じられた場合は投手交代が求められ、当該選手は以降、その大会に投手として出場することはできない。「もっとも、実際にはイニング間にベンチに行き、指導者に注意を促して終わることがほとんどですけどね」とある審判員が話す。

チェンジアップも例外なく変化球である、という認識

 こうして禁止が周知されているはずの変化球だが、今回、あえて通知が出された背景には、そのルールが必ずしも順守されていない実情がある。中でも問題視されているのは、多くの審判員たちが「判別が難しい」という、チェンジアップである。

 チェンジアップは一般的に、ストレートと同じ腕の振りで、ボールの握りを変えることにより速度を落とし、打者のタイミングを外すために投じる球種とされる。球筋が明らかに変わる横方向の変化球に比べ、学童投手が緩急をつけるために投じるスローボールと見分けづらいというのだ。

 審判員にしてみれば、確信がなければ指摘は難しく、まして相手は小学生。“疑わしきは罰せず”となることも多い、というのが現実のようだ。

 その一方で、一部の指導者からは、前述の規則にある「関節の障害防止のため」という記述を引き合いに、「ひねりを加えず握りを変えるだけのチェンジアップは、関節障害のリスクはストレートと変わらないのだから、違反に当たらない」という意見を耳にしたこともある。

 審判側の「(試合で)とりづらい」という事実と、指導者側の「関節障害にはつながらない」という都合の良い考えが重なったことで、拡大解釈が拡大解釈を呼び、チェンジアップが広まったようだ。中には、フォークボールと見まがうほどに落差の大きい球を投げる投手も。かくして、チェンジアップはいつの間にか「グレーゾーン」のような扱いになっていた。

 今回、冒頭の監督主将会議での説明では、「ボールの握りを変えていれば、球種名にかかわらず、すべて変化球であり禁止」と念を押していた。単にルール通りの説明をしたに過ぎないともいえるが、これまで都合の良い解釈の上に成り立っていた「グレーゾーン」が存在しないことを明言した意味は大きいはずだ。

“飛ぶバット”に対抗する意味も!? 打者優位は続くのか

抜け道探しではなくルールに則った真っ向勝負を望みたい【写真:フィールドフォース提供】

 もっとも、そもそもそんな議論があったのか、と感じる選手や指導者もいるだろう。変化球など全く無関係に試合が行われている地区や団体も少なくないはずだ。

 ここ数年、変化球の横行がたびたび話題に上がっていたのは、マクドナルド・トーナメントやNPBジュニアトーナメントといった、全国レベルの大会が多い。

 これは近年、とくに学童投手に「1日70球」の投球数制限が導入されたタイミングとも重なる。投球数制限により、剛速球エース一人が完投し、トーナメントを勝ち抜くような戦い方は困難に。継投が当たり前となり、速球だけに頼らず、緩急を使った「投球術」が模索される中で、チェンジアップの使用が広まった――という意見には説得力がある。

 加えて、ある審判員いわく「全国レベルの大会になると、普段、学童の試合でジャッジしている審判員ではなく、社会人大会を中心に活躍している審判員が増えます。変化球に対する判断が甘くなるのは、そのせいもあるかもしれません」。これも「都合よい解釈」を増長させる一因となっていたのかもしれない。

 さらに視点を変えてみれば、行き過ぎではあるものの、こうした投手側の努力の背景には、バットの進化による飛距離アップ、つまり打者優位の情況への対策という一面もあったはずだ、と訴える指導者もいた。

 昨年12月にはJSBBから、今後、弾性体を取り付けたバットを全面禁止とする通知が出されているが、その適用は2029年から。向こう3年はモラトリアムの状態にあり、これまで通りのバットを使うことが許されている。まだまだ打者有利の状況が続く可能性も否定できないのだ。

 ピッチャーにとっては、受難の時代かもしれない。それでも、条件はどのチームも同じ。抜け道を探すのではなく、ルールに沿ったスローボールを織り交ぜた緩急と、正確なコントロールに磨きをかけ、真っ向勝負、ストロングスタイルでの戦いを期待するばかりである。

〇鈴木秀樹(すずき・ひでき) 愛知県出身。フリーライターとして「東京中日スポーツ」「東京新聞」で学童野球を中心に扱う「みんなのスポーツ」コーナーの記者兼デスクとして取材、執筆と編集業務全般を20年以上担当。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて取材、執筆中。

https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know

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