なぜ捕手の二塁送球で怪我が多い? 体への負担を考慮…成長期は“立って投げる”

公開日:2022.10.27

更新日:2023.12.26

文:First-Pitch編集部

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他のポジションとは明らかに異なる? 捕手の投球動作に注目すべき理由

 肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。

 では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は佐久間健太郎さんと貝沼雄太さん。テーマは「捕手の投球動作」です。

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 捕手は投手の次に怪我の多いポジションといわれています。確かに捕手は投手にボールを投げ返すため投球数は多くなりますが、全力で返球はしないため負荷はそれほど高くないように感じます。捕手が最も強く投げる動作は二塁への送球だと考えられますが、他の野手と比べても回数が特別多いとは思えません。では、なぜ怪我が多いのでしょうか? 一つの研究を参考にその理由について追究したいと思います(※1)。

 試合中の捕手の送球については、捕球から何秒で二塁まで投げられるかに注目が集まっていて、投球動作はあまり見られていない印象があります。二塁送球はしゃがんだ状態からできる限り素早く投げなければいけないため、他のポジションとは明らかに異なった投球動作になり、助走をつけられない状態で投球をすることで負荷が大きくなると考えられます。

 障害予防という観点からは、投球動作にも注目するべきであると感じます。では、実際に捕手の二塁送球はどのような動作になっていて、どのくらいの負荷がかかっているのでしょうか。

 大学野球選手を対象とした研究で(1)しゃがんだ状態からの二塁送球の時、(2)立った状態からの二塁送球と同じ距離を投げた時、(3)マウンドから本塁に向かって投げた時、の3種類の投球動作を解析した報告があります。この研究では、(1)は(2)と(3)に比べて歩幅が狭く、体が開いていて、体幹の前傾が少なかったとされています。また、3種類の動作を比較したところ、肘や肩の負荷量は変わらないものの、球速はしゃがんだ状態からの送球が最も遅かったとのことです。以上の結果から、捕手の二塁送球は動作としては負担が大きくなる一方で球速が遅くなると述べられています。

 この研究から、捕手は負荷量の大きい投球動作になりやすいことが分かります。高いレベルでプレーする選手はこの事実を知ることで対応できると思いますが、成長期で体も技術も未熟なうちは立って送球することが望ましいと考えます。

▼参考文献
※1 Fortenbaugh D, Fleisig G, Bolt B. Coming down: throwing mechanics of baseball catcher. XXVIII International Society of Biomechanics in Sports Conference. Marquette, Michigan; 2010. 356-60.

◯古島医師が監修する肩・肘の故障予防アプリ「スポメド」のダウンロードはこちらから
https://info.spomed.net/

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