短時間で打ち勝つ力をつける工夫 “地味練”こそ楽しく…打席外でも「タイミング磨ける」
全国ベスト4進出の神奈川県・相陽中が取り入れる打撃指導
2022年、全日本少年春季軟式野球大会でベスト4に入るなど、日本一を本気で狙っている神奈川・相模原市立相陽中。チームの大きな武器がバッティングだ。中学軟式野球はロースコアの接戦になりやすいが、内藤博洋監督は「打ち勝てる打力」「高校野球(硬式野球)でも通用するバッティング」を掲げ、バットを振りまくる。放課後の練習はおよそ1時間。その中でもバットを振る時間を必ず設け、振る習慣を身に付けている。
取材日の練習時間は45分間(午後4時35分~5時20分)。ノックとアップを兼ねた「ノックアップ」、走者二塁からのバントを巡る攻防が終わったときには、すでに5時を過ぎていた。「すぐに素振りをやるぞ」という内藤監督の言葉で、選手たちはバットを手にグラウンドに飛び出した。
この間、選手同士で掛け合っていた言葉が、「移動ダッシュ!」だ。数メートルの距離であっても、ダッシュで移動し、無駄な時間を1秒でも減らす。「1秒ぐらいなら、まぁいいか」と思っていたら、『塵が積もれば……』のことわざのように、1週間や1か月で大きなタイムロスとなる。
「ダッシュ」と言わずに、わざわざ「移動」と付けるのは、言葉を大事にする内藤監督のこだわりだ。「ただ、『ダッシュ!』と言うよりも、『移動ダッシュ!』と言ったほうが、言葉が強調されて、心に残りやすいものです。些細なことかもしれませんが、胸に響く言葉を使うようにしています」
音楽に合わせた素振りで「楽しくスイング」
素振りは全員で行う。内藤監督自身、「実打」が大事なことは十分にわかっているが、ネットの準備などが必要のない素振りのほうが、短時間で効果を得やすい。
素振りの特徴は、音楽をかけながら行うところにある。テンポ120~130(bpm)、あるいはテンポ140~150の音楽を流し、そのテンポに合ったスイングを繰り返す。キャプテンによる、「イチ、ニ、サーン!」の声かけに、ほかの選手が続き、10回1セット。テンポが変われば、軸足に体重を溜める時間も変わってくる。
ただ振るだけでなく、指揮官からの細かいリクエストも入る。
「次は、『イチ、ニ、サーン!』ではなく、『イチ、ニ、サンッ!』で振ってみよう。『サン』を短く。意識するのは、コンパクトなスイングで、ライナーを打つこと」
『サーン!』と『サンッ!』では、たしかにスイングの幅が変わる。内藤監督の持論は、「発する声によって動作が変わる」。だからこそ、音を大事にする。
素振りは、自分の心と体に向き合い、黙々と振るイメージがあるが、内藤監督の考えは「素振りこそ、楽しく!」。リズムに乗って振ることで、楽しみながら回数を重ねることができる。
さまざまな取り組みで広げる「対応力」
内藤監督によるバッティング指導の特徴は、「いろいろやる」だ。ひとつの振り方だけでなく、あれもこれもやる。
「中学時代に大事なことは、いろいろな打ち方を体に染み込ませておくことだと思っています。『この打ち方しかできません』では、対応力のないバッターになり、高校野球に進んだときに苦労してしまう。足を大きく上げて打つことも、すり足で打つことも、ノーステップで打つことも、アッパースイングで打つことも、あえてゴロを打ちにいくことも、すべてが大事。素振りやバッティング練習の中で、さまざまなテーマを設けて、打つようにしています」
ミートポイントに関しても、「前で打つ」や「引き付けて打つ」などさまざまな考えがあるが、どちらも大事。
ヒジが伸びて、打球をもっとも飛ばせるところをAゾーン、それよりもキャッチャー側のヒジを曲げて捉えるところをBゾーンと定義する。日頃から、Aゾーン、Bゾーンで打つ練習を意識的に入れて、対応力を磨いている。
そもそも、バッティングはピッチャーのフォームやボールに合わせなければいけない“受動的”な立場である。どれほど強いスイングをしていても、タイミングを合わせることができなければ、打率は上がらない。このタイミングの指導も、内藤監督は“音”を活用する。
「ボールが来る空間上に印を付けるようにしています。リリースからミートポイントまで、『ア―――――、ドン(スイング)!』のときもあれば、スピードが速ければ『ア―――、ドン!』のときもあるわけです。バッティング練習では、ケージの後ろで待っている選手もこうした声を出すことで、タイミングを合わせる感覚を養うようにしています」
打席に入っていなくても、「タイミングを磨くことはできる」ということだ。相陽中の練習には、限られた時間でうまくなるための工夫が散りばめられている。