身長や腕の長さが肘関節に与える影響は?
肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球がうまくなる“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、ケガをしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は齊藤匠さんと貝沼雄太さん。テーマは「肘の負担と腕の長さについて」です。
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これまでの連載で、怪我をしないための体作りやストレッチの方法を紹介してきました。しかし、身長や腕の長さなど“変えることができない要素”がどう投球に影響するかは、あまり知られていません。身長や腕の長さが、肘関節に与える影響はあるのでしょうか。
肘関節の怪我は、オーバーユース(使い過ぎ)によるものが73.9%と最も多くなっています。その中でも投手の肘関節の怪我の危険因子は、変更可能なものと変更不能なものに分類できます。変更可能な危険因子には、年間を通しての投球数や投手と捕手の兼任、球速が速いことなどがあり、変更不能な危険因子には身長や手足の長さなどが含まれます。
過去の研究では、腕が長いと肘関節にかかる負担は減少すると報告されています(※1)。一方最新の研究では、上腕(肩から肘まで)が長いと、投球時に肘関節にかかる負担が増加するという異なる報告がなされています(※2)。また、上腕の長さに対する前腕(肘から手まで)の長さも肘関節への負担と関係しており、前腕が長いと投球時の肘関節への負担が大きくなっていたとしています。