成長期の神経系の発達を促すトレーニング
肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は齊藤匠さんと貝沼雄太さん。テーマは「成長期に行うプライオメトリックトレーニング」です。
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以前の記事「抵抗ある“成長期の筋トレ”…やってもOK? オフシーズンの効果的な鍛え方を解説」で、成長期のレジスタンストレーニング(筋力トレーニング)はガイドラインを順守すれば推奨されるとお伝えしました。今回は、レジスタンストレーニングの一種目であるプライオメトリックトレーニングを成長期に行う効果と方法についての論文を紹介します(※1)。
プライオメトリックトレーニングとは、筋肉を伸ばした後に急激に縮めることによって強い力を発揮させるトレーニングです。一般的には瞬発的な筋力発揮の向上を目的に行われますが、成長期においては神経系のトレーニングと位置づけられています。
走ること、跳ぶことは運動を行う上で基本的なスキルであると言われています。これらは筋肉の素早い反応が求められる動作であり、筋力も必要ですが、成長期においては神経の反応がその大部分を占めると論文の中では説明されています。神経の反応はプライオメトリックトレーニングによって調整することが可能で、成長期の子どもに対して効果を検証した研究では、運動速度の向上、筋力発揮の向上、ランニングスピードの向上、ジャンプ力の向上などが報告されています。
成長期の子どもに強い負荷をかけることに不安を感じると思います。確かに以前は成長期には推奨されないと言われていましたが、最近では世界的なトレーナーの団体であるNSCA(National Strength and Conditioning Association)が普段の遊びや運動の中で行われる動作から大きく逸脱するものではないとしています。しかし、大人が行うような大きな負荷をかけることは成長期には有害であることが明らかであり、この論文の中では成長期に行う上でのガイドラインを提示しています。
1、頻度は週2回以内、2日連続して行わない
2、トレーニング時間は25分以内とする
3、最初は負荷を少なくし、週単位で増加させる
4、トレーニング期間は短くても8~10週間とする
5、指導者と子どもの割合は1対5程度として、正しい動作で行うよう指導する