控え選手が“悲しい表情” 怒鳴る指導から転換…親子を「幸せにする」4つの方針

北海道・東川大雪少年野球クラブは「野球を通して子どもたちを育てる」
北海道東川町の少年野球チーム「東川大雪少年野球クラブ」を率いる小林弘明監督は、単に野球が強いチームを作ることを目指しているわけではない。思い描くのは、保護者や地域を巻き込み、関わる全員が「ハッピーになる」ような組織を作ることだ。チームの根幹には、4つの明確な指導方針がある。
【1】子どもの自主性・判断力を伸ばしたい:大人の言いなりになるのではなく、自ら判断する「自主選択野球」の象徴としてノーサイン野球を目指す。
【2】言葉を大切に(ポジティブシンキング):「じゃあ次どうすればいいの?」という指導のない叱りや怒りはしない。子どもに劣等感を与えず、「自分ならできる」と思える声かけを徹底する。
【3】低学年の指導も大切に:野球を始めたばかりの子どもに「できる喜び」を感じてもらうため、経験豊富な指導者を配置し、低学年のみの練習日も設ける。
【4】なんのために勝つのか:全国大会など見知らぬ土地での経験を通じ、子どもたちの「世界を広げる」ため。将来「どの土地でも大丈夫!」と思えるグローバルな人間を育てる。
この壮大なビジョンを掲げながらも、小林監督の姿勢は驚くほど謙虚だ。「未来の宝をお預かりして、指導を『させていただいている』という感覚です。誰でも良いということはないですし、責任はすごく重い」と指導者の立場を捉えている。
その謙虚さは、グラウンドでの呼称にも表れている。子どもたちや保護者から飛び交うのは「監督」ではなく「大将!」という威勢の良い声だ。
小学校の教員になり、指導者になった当初、「監督と呼ばれる器や実力はない」と感じたことがきっかけだ。「旭川実業高校の恩師である込山(久夫)監督や、プロ野球の王(貞治)監督、栗山(英樹)監督と同じ称号で呼ばれるのは、10年、20年、30年早いなと。そこで半分ふざけて『居酒屋の大将のように、気軽に声をかけられる存在になりたい』と提案したんです」と話す。それが定着し、20年近く経った今でも続いている。
かつては怒りながら指導した時期も…選手の表情でシフトチェンジ

かつては、レギュラーを固定し、激しく怒りながら指導をしていた時期もあった。前任チームの上富良野ジャガーズでは、2014年と2015年に「全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」に出場するなど結果を出した。
「全国大会に行けたら、試合に出られない子を含めて、みんなが幸せだと思っていたんです」。だが、実際は違った。帰宅して、試合に出られなかったことを家族に悲しそうに報告する選手の表情を見て、意識が変わった。「どうせ行くなら、みんながハッピーで行きたい」と思考をシフトした。
今では、グラウンドでの出来事が「お茶の間の話題」になる采配を心がけている。練習試合の応援に大阪から駆けつけたおじいちゃんが来ていると聞けば、その孫をスタメン起用。昨夏、旭川スタルヒン球場で行われた旭川チャンピオン大会では、6年生9人全員を登板させた。マウンドに上がれば、本人の経験になるだけではなく、保護者も喜んで写真を撮影し、最高の思い出になると考えたからだ。
小林監督が自らの意識を「私ファースト」から「選手・保護者ファースト」に変えたチーム。それを象徴する光景が、試合後のミーティングにある。大将を囲む選手たちのさらに外側に、保護者たちがぐるりと並び「二重の円」になる。

ミーティングを指導者と選手の間だけで完結させると、つい言葉が乱れる危険性がある。「後ろに大切に産み育ててくれた親御さんの顔があれば、悪い言葉は出なくなります」。さらに、指導者がどんな言葉で子どもに接しているかを親が直接聞くことで、安心感と納得が生まれ、家庭でも同じ方向を向いて接することができる。
小学5年生の息子が所属する森山大樹さんは語る。「私は大将やコーチに子どもを『預けている』という認識はありません。保護者と一緒に、野球を通して子どもたちを育てようというスタンスですから。習い事ではないですよね」。旭川市内から車で片道40分かけて息子を通わせている西佑佳子さんも「私自身、携わることができて楽しいし、毎日親子で青春しています」と厚い信頼を寄せる。
空き時間にはグラウンドやチームの道具、バッティングマシンを親子で自由に使って良いというルールも、親子の時間を大切にしてほしいという大将の願いの表れ。野球というスポーツを通じ、大将と保護者が手を携えて「未来の宝」を育む。東川大雪少年野球クラブの強さの根底には、大人たちが本気で築き上げた温かい絆があった。
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