学童で常識破りの“全員投手起用”「一生やらず終わる子も」 大胆采配を生んだ1週間管理

文:石川加奈子 / Kanako Ishikawa

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小学6年生全員がマウンドに上がった北海道・東川大雪少年野球スポーツ少年団

 少年野球の公式戦で、所属する小学6年生全員がマウンドに上がる。そんな常識破りの選手起用を実行したチームがある。北海道東川町の子どもたちで構成された「東川大雪少年野球スポーツ少年団」だ。大胆な選手起用は、理にかなった練習法と恵まれた練習環境によって支えられている。

 昨夏、旭川スタルヒン球場で行われた「旭川チャンピオン大会」に出場した際、小林弘明監督は3試合を通じて当時の6年生9人全員をマウンドへ送った。「普段試合に出ていない子がピッチャーでいくと、1個ストライク取るだけで、みんなが褒めます。盛り上がりましたね」と振り返る。

 全員に投手を経験させたいという思いは、以前から抱いていた。「ピッチャーをやるからこそ、野球の楽しさも難しさもわかる。打席に立った時にも、その経験を元にどう狙い球を絞るか学べるはずです。中学、高校へ進むと、どうしてもピッチャーは特定の選手に固定されてしまいます。ここで経験しなかったら、一生やらないまま終わる子も出てくる。失敗なら、ここで、なんぼでもすればいいんです」と親心をのぞかせる。

 とはいえ、誰もがストライクを投げられるわけではない。それを可能にしているのが、元阪神のトレーナーで野球の動作改善の専門家である前田健氏の理論を取り入れた投げ方の徹底だ。3年前から年に2、3度、直接指導に来てもらっている。

 旭川実高、北海道教育大旭川校で野球部主将を務めた経歴を持つ小林監督だが、優れた指導法があれば「教えてください」と頭を下げて学びに行く勉強家でもある。本を読み、講演会に足を運んで情報をインプットし、「自分が知ったかぶってはいけない。餅は餅屋です」と専門家の知見を柔軟に取り入れる。

札幌の強豪から学んだ「一斉キャッチボール」の効果

両翼80m、夜間照明が6基設置されたグラウンド【写真:石川加奈子】

 日々のキャッチボールにも、他チームの練習法が生きている。札幌の強豪チーム「東16丁目フリッパーズ」の笹谷武志監督からヒントを得た「一斉キャッチボール」もその一つ。選手たちがバラバラのタイミングではなく、合図とともに一斉に投げる。さらに、中継プレーを想定したステップや、右から左へ捕りにいって踏ん張って投げるなど、実戦的なメニューも織り交ぜる。

「一斉に投げると緊張感が違い、明らかに暴投が減ります。さらに、私が真ん中から全体を見渡すことで、肩や肘を壊す原因になる『高すぎるボール』を投げている子を一目で発見できるんです」。技術向上と怪我の予防を同時に叶える、極めて合理的なメニューとして採用している。

 怪我を防ぐための管理は、1週間の練習スケジュールにも及んでいる。野手であっても、土日の試合で球数を投げているため、火曜日の練習は「捕ること」を優先し、捕球後は投げる動作だけで送球はしない。水曜日は送球と捕球のバランスを取り、金曜日は週末の試合に向けた送球中心のメニューを組む。

 さらに目を引くのが、スケールの大きな練習環境だ。東川小学校に隣接するグラウンドは両翼80メートルと広く、外野は天然芝。夜間照明が6基完備されており、午後8時までみっちりと練習ができる。冬期間も使える室内練習場も備えている。

 屋外練習では、チームが所有する計7台の打撃用マシンのうち、4台を右翼のエリアに並べる。小林監督を含めた5人の指導者体制のもと、選手たちは2班に分かれ、半分は4か所で一斉に打ち込み、もう半分は内野や外野のノックを受けるという、効率的な練習を行っている。

“師匠”辻正人監督から学んだマシン主体の練習スタイル

4台のマシンを使って打撃練習をする様子【写真:石川加奈子】

 このマシン主体の練習スタイルは、小林監督が師匠と仰ぐ多賀少年野球クラブ(滋賀)の辻正人監督から教わった。当初、辻監督に平日練習のメニューを尋ねたところ「普通の練習やね」と返ってきた。詳細を知りたかった小林監督は、食い下がって質問攻めにした。

「マシンは使いますか? 1人何球ですか? と一問一答のように聞きました。失礼な内容になって嫌われたらどうしようと、まるで恋人に送るように、LINEの文章を作っては消し、作っては消しを繰り返して送っていました」と笑う。

 熱意の末に得た情報と、恵まれた環境。外部の知見を素直に吸収し、東川町という地に合わせて独自のアクションへと昇華させる。東川大雪の練習には、子どもたちが安全に、そして確実に上手くなるための仕掛けが散りばめられている。

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