フライ練習で「怖がるな」は逆効果 選手急増の強豪が工夫…成長を促す“心のゆとり”

公開日:2023.11.06

更新日:2024.01.10

文:間淳 / Jun Aida

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滋賀・多賀少年野球クラブのフライ練習…最初は「逃げながら捕る」

 野球を始めたばかりの子どもが直面する悩みの1つに、外野フライがある。ボールへの恐怖心があったり、距離感がつかめず落下地点にうまく入れなかったりして、苦手意識を持ってしまう。ここ数年は園児への指導にも力を入れている滋賀・多賀少年野球クラブでは、段階を踏んだメニューでフライを捕る感覚を養っている。

 全国大会で3度の優勝経験がある多賀少年野球クラブには現在、園児から小学6年生まで120人以上が所属する。野球の競技人口減少が深刻な中、選手の数が増えている理由は、園児や小学校低学年の野球未経験者が集まっている面が大きい。中には、滋賀県外から通っている選手もいる。

 チームを率いる辻正人監督は、子どもたちに飽きさせないメニューで、自然と技術が身に付く工夫を凝らしている。フライの練習では「ボールが怖い」と感じる選手もいるため、まずは体の横でグラブを開いて構えさせ、指導者がグラブを目がけて下からボールをトスする。キャッチできた選手には拍手を送り、大きな声で褒める。ノーバウンドの球を捕るうれしさを伝える狙いがある。

 フライの練習では、「体の正面で捕りなさい」「ボールから逃げないように」と声をかける指導者もいる。しかし、辻監督は恐怖心のある野球初心者には、ボールから逃げながら捕るように伝えている。逃げても良いと指導を受けた子どもたちには、精神的なゆとりが生まれ、ボールへの恐さが薄れて自然と体の近くで捕るようになるという。

2段階目は「動きながら捕る」…3段階目は打撃マシンを活用

フライ捕球の練習をする小学2年生の選手たち【写真:間淳】

 次のステップは、前後左右に動きながらフライを捕る練習。浅いフライを捕る練習では、選手を前に走らせてから指導者が手で下からフライを投げる。深いフライや左右のフライも同じように、選手が走ってから、その方向へフライを投げる。辻監督は「野球は動きながらプレーするので、試合に近い形で練習しています。落下地点のギリギリまで腕を振って思い切り走り、捕球寸前でグラブを出す意識を大切にしています。その方が捕球できる範囲が広がります」と語る。

 辻監督は前後左右どのフライに対しても、ノーバウンドで捕りにいく姿勢を見せた選手には「ナイスプレー!」と声をかけ、練習見学に来た保護者には拍手を促す。選手を褒める基準は捕球できたかどうかではなく、捕球しようとする気持ちがあったかどうか。辻監督は「この練習のファインプレーは、どんな動きをした時?」と選手に問う。そして、「ノーバウンドで捕りにいった時」と答えが返ってくると、「その通り。捕ったか落としたかは関係ないで。ノーバウンドで捕りにいった選手は全員、ファインプレーや!」と笑顔を見せる。

 手で投げたフライを捕れるようになったら、打撃マシンを使った最後のステップへ進む。外野フライの軌道になるようにマシンを調整。選手たちはマシンから飛んでくるボールをキャッチする。辻監督は「ノックと違ってマシンには再現性があります。最初は守っている位置からあまり動かないフライ、その後は前後左右に動きながらフライを捕る練習と難易度を上げられます」と、マシンを使うメリットを説明する。

 フライに恐怖心がある段階で「ボールを怖がるな」という言葉は逆効果になりかねない。段階を踏んだ指導や練習の工夫で、選手たちは自然とフライを捕る楽しさを覚えていく。

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