時間かけても…指導者全員で特徴把握 “個性尊重”チームが唯一正す「デメリット」

文:間淳 / Jun Aida

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中学生は成長速度に差…愛知名港ボーイズは個々に合わせて助言

 来春の全国大会出場を決めている名古屋市の中学硬式野球チーム「愛知名港ボーイズ」は、型にはめない指導を基本としている。打撃では選手の特徴を生かしながら、調子を崩した時にピンポイントでアドバイスする。個性が表れやすいタイミングの取り方では、肩を使う選手だけはフォームを修正している。

 愛知名港ボーイズは最近5年間で3度、全国大会に出場している。OBは仙台育英や浦和学院など、全国の甲子園常連校に進んでいる。6年前からチームを率いる奥村尚監督が重点を置くのは「型にはめない指導」。1人1人の選手を観察し、調子を崩した時に声をかける。

 例えば、速い球に詰まっている打者には「良い時と比べて、どこが違うかわかるか?」とたずねる。選手が答えに詰まると、奥村監督は「遠くに飛ばそうとする意識が強すぎてバットを二度引きしている」「テークバックが普段より大きくなり過ぎてタイミングが遅れているから、そこを修正すれば打てる」といったワンポイントアドバイスを送る。

 愛知名港ボーイズでは特定の打ち方を教えるのではなく、それぞれの選手の特性を生かしている。成長期の中学生は特に体格差が大きく、身体的な特徴や体の動かし方に違いがあるためだ。早熟で打球を遠くに飛ばせる体格がある選手と、これから成長期を迎える小柄な選手を同列に指導するのは、個々の良さを消してしまうと奥村監督は考えている。

 指導よりも観察の比重が大きいため、奥村監督はすぐに選手の変化に気付く。構えた時の手の位置を少し下げてスイングしている選手には「どんな狙い?」と質問する。選手から「打球が上がらないので試しています」と答えが返ってくると、「よし、それでやってみよう」と背中を押す。そして、選手の動きを見て「スイングの軌道が少しアッパーになり過ぎているかもしれない」などと指摘。選手の考え方を尊重して、ベストな方法を一緒に探していく。

目線がぶれるデメリット…肩を使ったタイミングの取り方は修正

愛知名港ボーイズの打撃練習の様子【写真:間淳】

 それぞれの選手の特徴や変化を把握するのは、時間や手間がかかる。特定の型を決めて指導する方が指導者の負担は小さい。だが、奥村監督は「せっかくうちのチームに入ってきてもらったので、全ての選手に野球がうまくなってほしい。私だけではなく、チームの指導者全員で選手を観察しています」と語った。

 打撃フォームは選手によって、構え方や足の上げ方など様々。タイミングの取り方も選手によって違いがあるが、チームでは唯一、肩を使ったタイミングの取り方は修正している。目線がブレたり、バットが出てこなくなったりするデメリットがあり、安打の確率を下げてしまうためだ。奥村監督は「肩以外であれば、肘でも手でも足でも、どこでタイミングを取っても構いません。選手が合う形を取り入れています」と説明する。

 選手が毎年入れ替わる中、安定して成績を残している愛知名港ボーイズ。選手の特徴を伸ばす「型にはめない指導」がチームカラーとなっている。

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