トス打撃の手伝いがまるで「修行」 ダメ出しでケンカも…母が知った“苛立ちの正体”

野球少年の母になって気づいた「トスは難しい」
少年野球をする子どものバッティング練習を手伝うはずが、気づけば親の修行になっていた――。思うように投げられないトスと、容赦なく飛んでくる息子のダメ出し。そのやり取りの中で見えてきたのは、子どもたちが野球を通して日々向き合っている“努力と結果”の現実だった。何気ない親子の練習時間から見えてきた、子どもの成長と親の学び。3人の子が野球に励む母であるライターが、その日常での気づきを綴る。
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野球少年の母になって、初めて知ったことがある。トスバッティングのトスは、思っている以上に難しい。
小学生の息子から初めて「お母さん、投げて」と言われたとき、正直楽勝だろうと思っていた。投手のように、16メートル先から投げるわけではない。近場からフワッと真ん中に投げるだけでいいのだ。
ところが、そう簡単にはいかなかった。ボールは私の意思に反して、右へ流れたり、左へずれたり、高さも安定しない。
最初のうちは黙って打っていた息子も、そのうち我慢できなくなったのだろう。高く上げれば「高すぎ」、低くなれば「低い」、前に落ちると「短い」、手元に投げると「近すぎる」とダメだしのオンパレード。そして最後には「もう、ちゃんと投げてよ」と不満をぶつけてくる。
母だって、ふざけているわけではない。むしろ気持ちよく打てるようにと、1球1球試行錯誤しながら、かなり真剣に投げている。それなのに息子からすれば、「適当に投げているのだろう」と感じているようだ。
そんなやり取りが何度も続くと、こちらもだんだん腹が立ってくる。「お母さんだって一生懸命やってるんだけど!」。せっかく始めた練習が親子げんかで終わる、そんな日も一度や二度ではなかった。
親子の練習時間に隠されていた「母としての学び」
ただ振り返ると、私が本当にイライラしていたのは、息子のダメ出しそのものではなかった気がする。「一生懸命やっているのに認めてもらえない」「頑張っているつもりなのに評価されない」。そんな悔しさだったのかもしれない。
そしてある時、ふと思った。これって、子どもたちが野球で日々経験していることではないだろうか、と。
「毎日練習しているのにヒットが出ない」「一生懸命頑張っているのに試合に出られない」。努力しても結果になかなかつながらず、認めてもらえない経験を、子どもたちは何度も何度も繰り返している。
私はたかだか数十分のトスバッティングで心が折れそうになっていたのに、子どもたちは何か月も、何年もその壁と向き合っているのだ。その壁を越えたいと必死でもがいているからこそのイライラなのかもしれない。
そう考えたとき、「ちゃんと投げてよ」という言葉の聞こえ方が少し変わった。
うまくなりたいと思って練習しているからこそ、思い通りにトスバッティングが進まないことにイライラしてしまう。それは野球に真剣だからこそだ。適当にやっているなら、そこまで悔しがることもないだろう。それは私自身も同じだった。真剣に向き合っているからこそ、「ちゃんと投げて」の一言に傷ついていたのだ。親子そろって本気だったのである。
何気ない親子の練習時間にも、母にとっては大切な学びが隠れている。子どもの言葉にすぐ反応しないこと、その奥にある気持ちを想像すること、そして、うまくいかない時間ごと受け止めながら見守ること。私にとってのトスバッティングは、子どものバッティング練習であると同時に、母として「受け止める力」を磨く時間であるのかもしれない。
私は今でも完璧なトスを上げられるわけではない。ただ気持ちの乱れがなくなったからだろうか、トスも安定してきたように感じる。「今のいい感じ」という息子の言葉に、心の中でガッツポーズをしつつ、母の修行の日々は続く。
〇石井愛子(いしい・あいこ)情報・ニュース番組から、Jリーグのピッチリポーターや千葉ロッテマリーンズの応援番組など、フリーアナウンサーとして幅広く活動。ライターとしても、スポーツや子育て支援分野を中心に取材、原稿執筆、イベント企画運営などを担当。五輪特設サイトでの執筆や、「bjリーグ」オフィシャルライターのほか、スポーツ関連書籍の執筆を手掛ける。現在は野球育成解決サイト「First-Pitch」での執筆や、同サイトのポッドキャスト番組「野球ママへの応援歌」のパーソナリティーも務める。
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