ボールのぼやけ、空振りは「乱視」の影響? 致命的な“情報の遅れ”…プロも行う矯正

大谷のチームメートも実践…トップ選手が乱視矯正を重視する理由
スマートフォン・タブレット社会の現代、小・中学生の視力低下が叫ばれる中、少年野球の選手や指導者・保護者が知っておきたいのが「乱視」が及ぼすプレー面の影響だ。ドジャース・大谷翔平投手の同僚であるマックス・マンシー内野手は、右目の乱視を矯正してプレー面に好影響を及ぼしたといい、巨人・坂本勇人内野手も、試合中の乱視矯正の重要性を語っている。トップ選手が実践する、コンタクトレンズなどを活用した乱視矯正には、パフォーマンス向上への科学的根拠があるという。
9月30日に開催されたジョンソン・エンド・ジョンソンのコンタクトレンズ「アキュビュー®︎ 乱視用」のイベントで、楽天イーグルスのスポーツビジョンアドバイザーを務める北里大学医療衛生学部の半田知也教授が、野球選手にとっての乱視矯正の意義について、豊富な現場経験をもとに解説した。
半田教授によると、一般の学生40人を対象に調査をすると、7〜8割に乱視傾向が見られるという。では、プロ野球選手ではどうだろうか。調査の結果は意外なものだった。
「視力矯正が必要な選手は全体の2割程度にすぎなかった。これは驚きでした」。つまり、多くの選手は裸眼でも十分な視力を備えているということ。理由は明らかではないが、「そのレベルの視力がなければプロでは生き残れないのかもしれない」と分析する。
一方で、視力矯正が必要な2割程度の選手にとっては、乱視への対応が非常に重要になる。中には球場ごとの特徴に合わせて矯正を行う選手もいるといい、「選手自身が、矯正の大切さを教えてくれる」と半田教授は話す。
選手の目の状態を定期的にチェックし、試合中も観察を欠かさないという半田教授。「先週はどの球に対してどう体が動いたか、なども把握しています」。目線の動きやテークバック時の視線、打球への追従など、細かい分析を行っている。それでも、半田教授がアドバイスを行うのは選手から相談があったときだけだ。調子が落ちたと感じたときに、「原因が目にあるのか、それとも体全体の問題なのかを区別する」ことを重視している。
ボールの見え方が劇的に変わる…乱視の矯正でパフォーマンス向上の可能性

実際にナイターでは、乱視のある・なしでどれだけ見え方が違うのだろうか。半田教授が示した資料写真(上参照)によると、乱視がある場合、照明を含めたグラウンド全体のピントがボケて見えることがわかる。
さらに重要なのが、視覚情報の処理速度への影響だ。半田教授が行う検査では、視力表を見て瞬時に答えられるかをテストするが、乱視がないと約0.7秒程度で答えられる一方、乱視があると返答までの時間がどんどん伸びていくという。
目で見た情報が脳で処理され、体が反応するまでの時間は、わずか0.2秒。このわずかな時間の中で、選手は「ボールの位置」「速さ」「回転」を瞬時に判断している。
具体的に考えてみよう。高校野球やプロレベルの話にはなるが、球速140キロのストレートは、ピッチャーの手を離れてから約0.4〜0.5秒でキャッチャーミットに届く。つまり、たった0.4秒の間に「見る→判断する→バットを振る」というすべての動作を完了させなければならない。
乱視があると、この視覚処理に遅れが生じる。ボールの輪郭がぼやけ、「今、どこにあるのか」の判断が鈍くなる。ほんの一瞬の遅れが、空振りや詰まった打球につながってしまう。逆に言えば、乱視を矯正することで、この視覚情報処理がスムーズになり、パフォーマンス向上につながるケースもあるのだ。
また、利き目の重要性についても半田教授は強調する。利き目は非利き目より、両眼で見たときの比重が大きく、利き目に乱視がある場合は特に矯正が必要だという。「乱視に左右差がある場合も影響が大きい。両眼で見たとき、非利き目の乱視はそれほど影響を感じない」と説明する。
トップ選手が実践していることは、アマチュアやジュニア世代にも参考になる。「見える」ことは野球の基本であり、適切な矯正が競技力向上につながる。乱視矯正によってプレーが変わる可能性があることを、保護者や指導者は知っておくべきだろう。
半田教授の「目が原因なのか、体全体の問題なのかを区別する」という視点は、少年野球の現場でも重要だ。素人に判断は難しいので、やはり専門医の診察を受けるのが最適だろう。野球のパフォーマンスだけでなく、健やかな子どもの成長のためにも、気になる症状があれば早めに相談に行ってほしい。
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