指導者が上、選手が下は「古い発想」 少年野球で求められる“新時代コーチ”の条件

「学ぶ指導者」プロジェクト第3回…「プレーヤーズセンタード」の重要性
答えを先回りして教えることが正解とされた時代、指導者の言葉は絶対的なルールでした。しかし、現代の少年野球で求められるのは、選手が自ら考え、行動する力を引き出す支援者の姿です。野球育成解決サイト「First-Pitch」がお届けする「学ぶ指導者」プロジェクトでは、全日本野球協会の前事務局長である長久保由治さんを案内役に、球界の未来を支える学びの重要性を伝えていきます。パパコーチとして思い悩むYさんとの会話の中から、資格取得の過程で出会う「コーチング」の本質を紐解きます。
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「Yさん、国が定めた『グッドコーチに向けた7つの提言』をご存じですか?」
私は、日本のスポーツ界が総力を挙げてまとめた指針について、Yさんに話をしました。
暴力の根絶や、指導者の“学び続ける姿勢”の大切さと並び、私がとりわけ熱を込めてYさんに伝えたかったのが、「プレーヤーズセンタード」(選手中心)という考え方です。自立したプレーヤーを育てるためにも、主役である選手が自分なりに立てた目標に対し、大人たちがサポートしていく。それこそ、これからの時代に求められる「グッドコーチ」の大きな条件なのだと私は考えています。
かつての野球現場では、指導者が「こう動け」「ああしろ」と答えを先回りして与えることが良しとされていました。しかし、今の指導者資格のカリキュラムが特に重きを置いているのは、スポーツマンシップの理解、そして「ティーチング」と「コーチング」の違いを正しく理解することです。
技術を「教える」ティーチングに対し、コーチングの語源は「馬車」にあります。つまり、主役である選手を目的地まで安全に「導く」役割を指しています。
「何かを“教える”ことだけがコーチではありません」。私がそう語りかけると、Yさんは真剣な表情で耳を傾けてくれました。選手が望む場所へ行くために、試行錯誤する姿を見守りつつ、指導者として何ができるかを考える。もどかしく感じるその時間ですが、実は指導者にとっても大きな学びの機会となります。「なぜこの子は、こういう動きになるのだろう?」と問いを立てて観察することで、指導者自身の引き出しが自然と増えていくのです。
指導者の“特権”を一旦手放してみる

一方で、残念ながら今の現場でも、選手を茶化したり、大声で笑いものにしたりするような振る舞いが散見されます。その根底にあるのは、選手へのリスペクトの欠如に他なりません。
「指導者が上で、選手が下。そんな古い発想は、一旦脇に置いてほしい」
私はYさんに、「選手のおかげで指導者をさせてもらっている、実績を積ませてもらっている」という感謝の思いを持つべきだと伝えました。少年野球に関わる大人は、選手から多くを「教わっている」という謙虚な姿勢が求められます。Yさんはこれまでの自身の振る舞いを省みながら、資格取得への道が技術論だけでなく、自分自身の「人間力」をアップデートするための旅路なのだと深く共感してくれました。
指導者の“特権”を一旦手放して、真っすぐ選手と向き合う。選手をコントロールしようとするのをやめ、一人の人間としてリスペクトする。その心の置きどころを変えることが、子どもたちと共に新しい時代の野球を築いていくための、一番大切な一歩です。
◎BFJ公認野球指導者資格についての詳細はこちら
https://baseballjapan.org/jpn/coach/official_coaching_license_03.html
〇長久保由治(ながくぼ・ゆうじ)1960年2月9日生まれ。大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。『週刊ベースボール』など野球雑誌の編集・書籍企画に25年あまり従事。2009年退社後、全日本軟式野球連盟の事務局長に就任。2018年には全日本野球協会の理事・事務局長に就任し、16年あまりにわたり中央競技団体の事務方トップとして野球の普及振興に尽力。2025年6月、任期満了で退任。現在はCreative2の野球事業アドバイザーを務める。
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