元楽天投手が指導「コーディネーショントレ」とは? 少年野球の子どもたちに最適
元楽天の土屋朋弘氏は現役引退後、キッズコーディネーショントレーナーの資格取得
セカンドキャリアでは、子どもたちの可能性を引き出している。楽天で投手としてプレーした土屋朋弘さんは今、仙台市で野球教室や運動能力を高めるキッズ教室を運営している。指導で重視しているのは、将来に向けて動きのバリエーションを増やす「コーディネーショントレーニング」。あらゆるスポーツに生きると言われているドイツ発祥のトレーニングで、野球でも投球、打撃、守備、走塁と全ての面で技術向上につながると期待されている。
2013年まで楽天でプレーした土屋さんは現役引退後、打撃投手をしながらトレーナーの勉強をした。体作りやケア、トレーニング方法などを学ぶ中で、興味を持ったのがコーディネーショントレーニングだった。米国で設立されたトレーナーやインストラクターの資格認定団体「NESTA」の個人トレーナーとキッズコーディネーショントレーナーの資格を取り、昨年10月に「土屋教室」を始めた。
教室では、野球技術の指導や体づくりのサポートもしているが、最大の特徴はコーディネーショントレーニングに重点を置いている点にある。運動能力が伸びるゴールデンエイジと言われる園児から小学生を対象に、イメージ通り体を動かせるようにするトレーニングメニューを組んでいる。土屋さんが野球に特化した教室にしなかったのは理由があった。
「今の子どもたちは昔と比べて圧倒的に体を動かす機会が減っています。体の動かし方を知れば、運動能力は上がります。子どもの頃に運動の楽しさを知って、運動を生活の一部にしてほしいと思いました」
ゲームやスマホなども影響…子どもの運動能力低下と姿勢の悪さに危機感
コーディネーショントレーニングでは、相手や物との距離感や位置を正しく把握する「定位能力」や体の複数の部位を同時にスムーズに動かす「連結能力」など7つの能力を鍛える。例えば、少年野球をしている子どもで定位能力が低いと、フライの落下地点が上手く判断できず落球したり、投球に対してバットを振る位置を合わせられず空振りが多くなったりする。トレーニングの内容が打つ、投げるといった直接的な野球の動きではないため成果が見えにくい面はあるが、様々な動きを身に付けて自分のイメージ通りに体を動かせるようになれば、パフォーマンスアップにつながる。
土屋さんは指導する中で、子どもたちの運動能力の低下と姿勢の変化を感じている。メニューの1つで垂直跳びを取り入れると、子どもたちのジャンプ力は想像以上に低い。本来ジャンプする時は、母指球(足の裏の親指の付け根)を使って地面を蹴り上げる。ところが足裏の中心やかかと、他の指に力を入れてジャンプする子どもが多いという。
足で地面から力をもらう動きができなければ、ジャンプ力だけではなく、走るスピードも落ちる。力強い球を投げたり強い打球を飛ばしたりするためにも、地面を蹴る動きは重要。筋力の強化や野球用具の扱い方以前に、野球の上達には体の動かし方が不可欠なのだ。土屋さんは「子どもたちは運動よりゲームの時間が増え、パソコンやスマートフォンによって姿勢が悪くなっています。運動能力が伸びる年代に、体の使い方を覚えることが将来につながります」と話す。
土屋さんは上手くできたら子どもたちを褒め、まだ難しいと思ったメニューを課す時には「できなくても大丈夫」と声をかける。教室では子どもたちに競わせ、順位を付けるようにしている。
教室では必ず順位付け「諦めずに悔しいと感じる子どもに」
「社会に出れば、嫌でも順位付けされます。子どものうちから、勝ち負けを意識させるようにしています。できない、負けたとなった時に諦めるのではなく、悔しいと感じて練習する子どもになってほしいと思っています」
コーディネーショントレーニングのメニューはシンプルなものが多い。例えば片足立ちでは、目を閉じたり両腕を横に伸ばしたりする動きを加える。ボールを使ったものなら、ボールを上に投げて宙に浮いている間に手を1回叩いてキャッチする。できるようになったら、手を叩く回数を増やしたり、回転したりする動きを足していく。
1つのメニューをクリアすると子どもたちは達成感を抱き、次に挑戦しようとする意欲も沸く。土屋さんは「体を動かす楽しさを知って、休日に自ら運動する子どもや教室でできなかったメニューを自宅で練習する子どももいます」と笑顔を見せる。ただ、日本ではコーディネーショントレーニングの認知度がまだ高くない。土屋さんは少年野球の指導者にも知ってほしいと訴えている。
「子どもたちは体の使い方を知らないだけで、トレーニングで身に付けられます。それを指導者が知らなければ、教えることを諦めてしまい、選手の可能性を潰しかねません」
コーディネーショントレーニングの目的は、将来につながる土台作り。土屋さんは中学、高校と上のステージで飛躍する子どもたちをイメージして指導している。
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