働き方改革で“やりがい”を失う教員も? 野球の競技人口減少ともう1つの不安

2023年度から部活動は地域移行へ 中学野球はクラブチーム化

 国が進める教員の働き方改革により、部活動の地域移行が来年度から始まる。野球界では、人口減少に拍車がかかると懸念される中、別の問題も指摘されている。日本中学校体育連盟(中体連)の軟式野球競技部長を務める土屋好史さん(高崎市立群馬中央中教員)は、「部活動を通して全人的教育を行ってきた教員、すなわち指導力に優れた教員が自らを生かす場を失う」と厳しい表情を見せる。

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 中学生の野球は、硬式を中心にクラブチームが全国に存在する。ただ、保護者の負担や生徒が競技を始める手軽さなどから、部活動が担う役割は大きい。部活動は月謝や任意の民間保険に加入する必要はなく、基本的には送迎も必要ない。一方、土日も勤務する教員への負担が問題視されている。そこで、国は来年度から部活動を地域に移行する方針を示している。

 国の指針では2023年度から移行期間、2026年度には平日の移行も視野に入れながら、休日の部活動の完全移行を目指すとしている。地域移行とは運営主体を今までの学校ではなく、自治体や民間団体等へ移行し、指導者も地域の人材に任せるというものである。

 地域に移行された場合、チーム運営に関わる経費は選手側の負担となり、家庭の金銭的な負担が大きくなる可能性がある。また、練習場所も保護者の送迎が必要になることも考えられ、保護者の負担が増え、野球をやりたくても保護者の都合でやれないというケースの増加も懸念されている。そんな状態に土屋さんは「国民的競技であった野球が、気軽に取り組むことのできないものとなり、野球という競技の特性が大きく変わってしまう」と話す。

「指導力ある先生が指導機会を失うのは野球界の損失」

 野球界や教育現場で指摘されている課題は、競技人口の減少だけではない。教員が働きがいの1つを失う心配がある。部活動がクラブチーム化した場合、指導したい教員も関われない可能性があるという。

 地域移行に伴い、各自治体は兼業制度を設けた。申請を出した教員が所属する教育委員会の許可を得て、指導に関わる制度だが、指導に関わる時間は労働基準法の時間外勤務に基づくため、通常の残業と合算される。つまり、学校の業務で時間外労働が増えれば、兼業として認められないケースも出てくる。土屋さんは不安を隠せない。

「部活動に熱心な教員の多くは単なる野球の技術指導だけではなく、日常の学校生活も生徒とともにし、喜びや悔しさを分かち合うことで豊かな人間形成を目指しています。つまり、部活動であるからこそ熱心に指導できるという先生方も少なくありません。地域移行したときにどれだけの先生方が指導に関わってくれるのかはわかりませんが、指導力のある先生方が指導機会を失うことは野球界にとっても大きな損失です」

 教員の働く環境を改善させる必要性は言うまでもない。ただ、部活動の指導を通し、素晴らしい教育活動に従事し、教育界に寄与している教員がいるのも事実。地域移行と並行して、指導者の待遇も変えていくのがクラブチーム化の成功のカギではないだろうか。

(川村虎大 / Kodai Kawamura)