親の干渉で選手のパフォーマンス低下…怪我する危険も
小、中学生の野球チームが直面する問題の1つに、指導者、保護者、子どもの距離感がある。創設11年目で今春、全国制覇を成し遂げた愛知県の中学硬式野球チーム「東海中央ボーイズ」は、保護者に対してグラウンドでは子どもに干渉しないよう呼び掛けている。選手と同じようにグラウンドでは決して椅子に座らず真剣に向き合う指導者の姿勢が、保護者との関係構築には大事だという。
保護者は誰もが、自分の子を一番かわいいと思っている。ただ、その気持ちが強くなり過ぎる場合がある。チームの練習法や選手の起用法について口を出す行為は代表例と言える。今年3月の第53回日本少年野球春季全国大会で頂点に立った東海中央ボーイズでは、保護者に「グラウンドでは子どもに対して絶対に干渉しないでください」と伝えている。竹脇賢二監督が理由を説明する。
「練習中に子どもたちに不用意に声をかけたり、フォームの指摘をしたりしないでほしいという意味です。親が干渉すると、選手によっては親の顔色を見てプレーするケースがあります。集中力を欠いてパフォーマンスが落ちるだけでなく、怪我や事故の危険もあります。グラウンドに来た以上は、私たちに任せてほしいと思っています。私は、助監督やコーチへの絶大なる信頼を寄せています」
チームによっては指導者と保護者で食事会を開いたり、練習中に談笑したりする距離感が近いところもある。竹脇監督は選手の人数や練習環境など、それぞれのチーム事情に理解を示した上で「私は昔も今も保護者とは一定の線引きをしています」と話す。
「今はコミュニケーションを図った方が良い時代のように感じますが、私たちのチームには約100人の部員がいます。全ての保護者とコミュニケーションを密にするのは難しいです。野球は子どもたちのためにやっているので、限りある時間は子どもたち、指導者とのコミュニケーションに使いたいと考えています」
保護者に選手起用で意見を言われたら…「練習を丸一日見てください」
竹脇監督自身に経験はないが、保護者が選手の起用法に意見を述べたり、権限を持ったりしているチームがある。仮に選手起用について保護者から意見や要望を言われたら、どうするのか。指揮官は自信を持って、こう答えた。
「自分の子どもが一番かわいい保護者の気持ちは分かります。実力があっても試合に出ていない場合もあるでしょう。チームスポーツの野球には個の実力以外の要素も大切だと説明します。それを見極めるために、全ての指導者は一日中、椅子に座ることなくグラウンド内での取り組み、プレー、表情を確認しています。その中で、コーチ陣と相談して私が最終的に選んでいるわけです。起用法に納得がいかない保護者がいたら『我々の代わりにお任せするので、土日にグラウンドに立ち続けてみてください』と一言伝えます」
竹脇監督はベンチ入りメンバーを選ぶ時に最も悩む。個々の選手の特徴を細かいところまで理解しているからだ。自身やコーチ陣が妥協せずに選手と向き合っている自負もある。だからこそ、その姿を保護者が見れば、たとえ自分の子どもが試合に出ていなくても納得感は得られていると考えている。
「保護者から選手の起用法について何か言われたことはありません。言われる状況をつくっていないと言った方が正しいかもしれません」。誰のために、どこを見ながら指導するのか。竹脇監督の信念は決してぶれない。