選手が涙「野球に行きたくない」 迫られた“選択”…全国出場へ導いた「昭和指導」の根絶

更新日:2026.07.16

文:橋本健吾 / Kengo Hashimoto

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昨年初めてマクドナルド・トーナメントに出場した三重県の「庄野シリウス」

 厳しさ溢れる“昭和の指導”を根絶し、チームは生まれ変わった。三重県に拠点を置く学童野球チーム「庄野シリウス」。監督生活11年目を迎える林貴俊さんは「勝利至上主義」から脱却し、昨年は日本一を決める“小学生の甲子園”「高円宮賜杯 第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」に初出場を果たした。当初は20人以下だった部員も、現在は50人を超える大所帯となり三重県を代表するチームに成長した。

「昔はね、ミスをするとずっと怒鳴っていたんです。『お前のエラーでこうなった』とか、プレッシャーを与えることもありました。子どもたちは僕の顔色ばかりうかがってプレーしていた」

 林監督は2011年からチームに携わり、2015年から正式に背番号「30」を背負い采配を振るうようになった。就任して2年目、早々に分厚い壁に直面した。最上級生の6年生がわずか4人。チームの人数は激減し、存続の危機すら囁かれていた。「人数が少なくても勝ちたい。子どもたちに夢を持たせたい」。その一心で、林監督は学童野球の強豪チームを徹底的に研究し始めた。

 そこで出会ったのが、全国屈指の強豪である滋賀県の「多賀少年野球クラブ」だった。圧倒的な技術、小学生離れした戦術の緻密さ。同年代の同じ体格の子どもたちが、なぜこれほどまでに違うのか――。素人同然の指導者だった林監督は「強豪のマネをすれば強くなれる」と、信じ込んだ。

 当時の学童野球界には「厳しくやれば勝てる」という風潮があったという。懇親会で顔を合わせる実績ある監督たちからも、「もっと厳しくやらなきゃダメだ」と発破をかけられた。ミスをすれば声を荒げ、プレッシャーをかけて追い込む。その“手段”は一時的な結果をもたらし、チームは県大会に出場できるレベルへと引き上げられた。しかし、グラウンドには重苦しい空気が漂い「野球に行きたくない」と、涙をこぼす子どもいたという。

厳しい指導から一転、子どもたちの自主性を尊重「一番の目的は子どもたちの成長」

「チームの一番の目的は子どもたちの成長」と話す【写真:橋本健吾】

 転機が訪れたのは2019年。練習試合のために「多賀少年野球クラブ」を訪れると、グラウンドの“異変”に気づいた。かつて自分がお手本にしていた、ピリピリとした厳しい空気が一切ない。戸惑いをみせるなか、多賀の辻正人監督から「あなたがやっているのは、何年か前の多賀の野球。今からはそれじゃダメだ。これからどうするんですか?」と、選択を迫られたという。

 当初よりもチーム力は上がったが、指導の限界も感じていた林監督は「変えます」と、その場で即決。すると、辻監督は、保護者たちを集め「これからこのチームは変わります。ポジティブなアプローチで、子どもたちにエネルギーを与えていくチームになります」と、林監督に代わり宣言した。

 方針を転換した直後、以前のようにチームは勝てなくなった。しかし、林監督はブレなかった。「やらせるのではなく、自主的にやる方向へ持っていく」。練習を早く終わらせ、監督がグラウンドから立ち去る。あえて「残りの時間は、自分たちで考えて練習しなさい」と促した。最初は戸惑っていた子どもたちも、徐々に自らバットを振り、ボールを追いかけるようになったという。

 また、辻監督の理論の「本質」をかみ砕き、幼児や低学年からの育成クラスを創設。「走りの学校」や「バネ投げ」といった最新の専門的なトレーニングも積極的に取り入れた。何より、無理なストレスをかけず「遊びの中で野球を好きにさせる」環境作りに奔走した。気がつけば、20人ほどだった部員は50人前後にまで膨れ上がっていた。

「チームの目標としてはマクドナルド・トーナメントなど全国大会に出ることです。でも、それが全てになるとチームは壊れる。一番の目的は子どもたちの成長なんです。目標と目的を履き違えないこと。全国に行けなかったからダメなんじゃない。次のステージに向けて、どう成長させるか。そこは絶対に変わらない」

 指導者の顔色をうかがっていた子どもたちの姿はもうない。辻監督の出会いが、自身の指導を改めるきっかけとなり、チームの成長に繋がった。林監督はこれからも、子どもたちの自主性を伸ばし、未来の野球界を担う球児を育成していく。

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