競技人口減阻止へ、高校生が「継続的」野球教室 大会中は負担も…“感覚を伝える”意義

公開日:2024.07.19

文:川浪康太郎 / Kotaro Kawanami

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福井・鯖江高で小学生を指導…「サバチル」のキーワードは「歴史が変わったか」

 福井・鯖江高の野球部員が、スポーツ少年団(軟式クラブチーム)に加入していない小学3年生~6年生を対象とした野球教室「SABA CHIL」(以下・サバチル)を6月から実施している。2年生の部員15人で練習メニューの考案や保護者への連絡など、すべての業務を役割分担し、生徒主体の企画・運営を行う活動。日々の練習で汗を流し、夏の地方大会が近づく中でも、継続的に地域の子どもたちのための取り組みに励んできた。

 サバチルは週1回、毎週日曜日の練習試合後に2時間開催される。夏の時期は地方大会に向け練習の強度が高まる上、暑さで疲労を感じやすくなる。活動をサポートする見延陽一監督は「高校生にとっては間違いなく負担だと思います」と部員を気遣う一方、「10年後、高校野球のメンバー表にサバチルOBの名前があったら、喜びを味わうことができる。その先にある喜びを、選手たちが感じることができれば」と願っている。

 この活動のキーワードは「歴史が変わったか」。野球をしないつもりだった小学生が、サバチルをきっかけに高校生まで野球を続け、さらに将来、その子どもも野球を始めるようになれば、歴史は変わったことになる。部員らは、競技人口減少を課題とする少年野球界の歴史を変えようと意気込んでいる。

 サバチルには今月9日時点で21人の小学生が登録しているが、中には以前スポ少に加入していた野球経験者もいる。練習メニューを考案する部員は、そうした野球経験者と未経験者でグループを分け、経験者には実戦形式の練習を積ませ、未経験者には打撃やキャッチボールの基礎を教えるなど、工夫を凝らしたメニューを考えている。大前提にあるのは「子どもたちに野球の楽しさを知ってもらう」ことだ。

相乗効果にも期待、野球教室での指導が“アウトプット”の場に

投球指導をする選手たち【写真:SABA CHIL提供】

 見延監督は「高校生は自分の引き出ししか持っていないので、今はまだ難しく感じている段階だと思いますが、教える活動を続けることで、自分たちの野球の技術に反映させるところまでいってもらえれば」と相乗効果にも期待している。

「高校生は野球を始めてから10年近く経って、感覚的な動きをしています。感覚的なものを言葉に落とし込んで、小学生ができるかどうかを見極め、できないのであればどういう表現をすればいいかを自身で悩みながら指導することが大事。遠くに飛ばしたら『ナイスバッティング』、いいボールを投げたら『ナイスボール』と言うだけでなく、細かい指導ができるようになるといいですね」

生徒主体で企画・運営を行っている【写真:SABA CHIL提供】

 鯖江高は自主練習に重きを置いており、サバチルが、日頃から自身で考え、実践していることをアウトプットする場にもなっている。野球教室を単発にせず参加者の「登録制」を採用しているのは、中学校でも野球を続ける子どもを増やすためだけでなく、部員が継続的な指導をできるようにするためでもある。

 今の活動に全力を注ぎ、歴史を変えることができれば、未来の喜びが増える。アップデートを続けながら、小学生と高校生、双方の未来につながるサバチルをつくり上げる。

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