学童野球のDH制は“非現実的”か 趣旨には全員賛同も…「指導者のモラル」問う声

更新日:2024.02.04

文:大久保克哉 / Katsuya Okubo

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全軟連が2024年度から「指名打者制」導入…現場監督・関係者の意見

『子どものころからエースで4番』で始まるCMソングが流行ったのは1990年代の初頭。それからおよそ30年、エースの役回りや打順の解釈が多様化する今日の少年野球界でも、投打「二刀流」の活躍が決して珍しくない。

 全国9000超の学童(小学生)チームが加盟する全日本軟式野球連盟(全軟連)では、1日70球の球数制限や6イニング90分制など、30年前は議題にもなかっただろうルールを採用。その主眼は選手の心身保護で、1990年には1万7000以上あった加盟チームが激減していることも背景にはある。

 来たる新年度からは指名打者制(DH制)も導入される。「一人でも多くの選手に出場機会を」という理由だが、全軟連の吉岡大輔事務局長はこうクギを刺す。

「DHはあくまでも任意で、義務付けではありません。選択肢のひとつをご提供したということです」

 では、現場ではどう受け止められているのか。全軟連の狙いを紹介した前編に続き、今回は全国各地の監督たちの踏み込んだ声を取り上げたい。キャリアの長い監督たちに話を聞くと、反対意見は皆無。ただし、例のごとく投打「二刀流」が当たり前なので、投手の代わりに打席に入るDHは「使いどころがない」との意見が大多数を占めた。

「出場機会増ならDPが現実的」「良い方向に動いている」の意見も

「絶対とは言えんけど、投手をする子というのは運動能力も優れていることが多い。つまり打撃も良いので、DHは現実的ではないかなと思います」

 これは昨年の日本一、大阪・新家スターズの千代松剛史監督の見解で、全国大会を知る指導者はほぼ同様だった。

「よほどの選手層があるチームでないと使えないのでは」(北海道・東16丁目フリッパーズの笹谷武志監督=2017年日本一)。

「ウチは人数がギリギリで、過去に主軸を打たなかった投手もおらんので。周辺でもDH制はあまり話題になってないです」(長崎・波佐見鴻ノ巣少年野球クラブ・村川和法監督=2023年全国8強)。

「子どもを『投手専門』『打撃専門』と限定してしまうチームも出てくるかも。ウチはやりませんけど」(福島・常磐軟式野球スポーツ少年団の天井正之監督=2010年日本一)。

「仮にDHで使う子がいたとしても、練習はすべてみんなと同じくやらせます」(茨城・茎崎ファイターズ・吉田祐司監督=2019年全国準優勝)。

「DHで天才打者が育つ可能性もあるでしょうけど、子どものうちは投手も打たせてあげたいです」(千葉・磯辺シャークスの小池貴昭監督=2013年全国8強)。

 過去に全国出場もあるNPO法人、埼玉・吉川ウイングスは38年前から主催するローカル大会で「DP(投手を含む野手に代わる打者)」を採用。「大会によってDHを使い分けるのもアリですね。ただ、出場機会を増やすならDPが現実的だと思います」(岡崎真二監督)。

 同様のリクエストも多数聞かれた。滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督(2018年・19年日本一)は、DP制やリエントリー制への移行も予見する。「今は1日70球の球数制限で故障者が激減してますけど、このルールもイニング制限から少しずつ変化して今に。良い方向へ動いていること、やりながら変えていくあたりにも共感します」。

「野球の魅力『全員が打席に立つ権利』は残すべき」と事務局長

個々の育成を最優先のブロッサムBBCの片山純一コーチは「全試合、DHを使います」と断言【写真提供:フィールドフォース】

 これらの熱い声に、全軟連の吉岡事務局長も熱い私見で応えてくれた。

「DP採用となれば、打席に立てない野手が発生します。走攻守で得手不得手があるのも当然ですが、野球の魅力でもある『全員が打席に立つ権利』は教育上の観点も含め、残すべきかと。打撃に自信がない選手でも失敗から努力を重ねたり、1本のヒットから可能性や能力が向上するかもしれません。投手もそれは同様ですが、体力的にも精神的にも重圧が大きいポジション。酷使や障害予防の観点からも総合的に検討した結果がDH制導入で、個人的にはこのままでいいと考えています」

 全国区の中でも、2019年全国準優勝の愛知・北名古屋ドリームスは、練習試合からDHを採用するという。1学年で10人強、伝統的に打力で鳴る強豪を率いる岡秀信監督はこう語る。

「DH制は待ち望んでいました。ウチは過去にも『エースで4番』はいないし、投打二刀流はレアケース。また、なぜか他は守れないのに投手はできるという子もいたり。怪我予防とかモチベーションを保つ意味でもDHは有効ですね」

 一方、全国予選は不参加で育成を重視する東京の新興チーム、ブロッサムBBCの片山純一代表の意見も興味深い。同代表は亜大、社会人日本代表でもプレーした左腕投手だった。

「指導者のモラルも問われますよね。『勝利』を外して『育成』『機会』とした場合には活用できるのがDH。僕は東都大学リーグ(DH制)にいたけど、神宮大会(DH制なし)で打席に立てたときに、打つのは楽しいなと再認識。その反面、準備がむちゃくちゃ難しい。学童野球でもDHを経験して、ルールとか打撃に興味が沸くこともあると思います。ウチは全試合でDHを使います」

 DHを使うか否かは、チームの目標や方針、戦う舞台によって違いが見られそうだ。ともあれ、「一人でも多くに出場機会を」という導入趣旨には100%の賛同があった。30年前の現場では果たして、こういう事態はありえたのだろうか。

○大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」でロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中
https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know

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