
東京・品川区の学童女子野球選抜チーム「品川レディース」
東京・品川区を中心に活動する学童女子選抜チーム「品川レディース」は、2025年の「東京都知事杯 第14回東京都女子学童軟式野球大会エリエールトーナメント」でベスト4に進出など、毎年好成績を残し続けている。2012年の発足時から参画し、2018年からチームを率いる原田真吾監督は、かつては男子チームを厳しく教えた“勝利至上主義”の指導者であり、同時に家庭では2人の息子を必死に育てるシングルファーザーだった。指導者人生からたどり着いた、ある気づきと猛省について教えてくれた。
「どうしてうちの子は上手くならないんだろう」
「もっと熱心に練習させなきゃ」
「あのプレー、なんで?」
保護者は我が子の可能性を誰よりも信じ、野球に本気で向き合っているからこそ、つい他の選手と比べて焦りや悩みを抱えがちだ。活躍を心から願う熱さがゆえに、時には感情的に詰め寄ってしまい、後から「言い過ぎた」と落ち込んでしまう日も少なくない。
原田監督にもまた、今も胸に深く残る後悔があるという。かつては男子チームで時に怒号を飛ばすような厳しい指導者であったのと同時に、私生活では2人の野球少年の子育てにも追われていた。
「『週に何千回バットを振れ』『何周走ってこい』と、強制的に言うこともあったと思います。結果として、息子たちは野球が上手くなりましたし、チームも強かった。だけど2人とも、とっくに野球をやめてしまった。野球が好きか、と聞いたら心からイエスと答えられないかもしれません」
野球を上手にさせることには成功したけれど、好きにさせることはできなかったのではないか――。原田監督は自身の経験から、勝利至上主義で過度なプレッシャーに陥りがちな学童野球の指導、そして保護者との関わり方について考え直すようになったという。
「この後悔があったからこそ、当時のやり方の何がダメだったのか、今では息子と酒を交わしながら話すことができるようになりました(笑)」
だからこそ、現在品川レディースで目指すゴールは、「大それた人間形成などではなく、シンプルなこと」。つまり「ただ野球を好きになってもらいたい、嫌いにならないでほしい。それだけです」と語る。
答えを知っていても「あえて失敗させる」

選手がミスをしたり、効率の悪い動きをしていたりすると、大人はつい先回りして「答え」を教えたくなるものだ。しかし、原田監督のスタンスは徹底して「待つ」。
「僕ら大人は、経験則から答えを知っているし、こうしたほうがいいというアドバイスもできる立場です。でも、子どもたちは簡単に答えが手に入ったり、それを押し付けられたりしては、野球を好きにはならないんですよね」。選手たちが自分で行動し、気づくまでじっと見守る。大人の「信じて待つ」姿勢が、子どもたちの自主性を育み、野球について考える時間を増やすきっかけになるという。
また、品川レディースでは、監督がキャプテンを任命することはしない。代わりに導入しているのが、「卒団していく6年生(先輩)が、次期キャプテンを指名する」という独自のシステムだ。
チームの顔であり、強い責任感が求められるキャプテンというポジション。少年野球では、監督やコーチといった大人が指名するのが一般的かもしれない。我が子が選ばれれば保護者にとっては誇らしく、名誉に感じるもの。しかし原田監督はあるとき、その当たり前に疑問を抱いたという。
「任命された子の保護者も『大変だけど、選んでもらえて嬉しい』と思うかもしれません。でも、肝心の本人は嬉しいのだろうか、と。重圧や不安で、実は苦しんでいる子もいるんじゃないか、と。それなら子どものことは、子どもたちに聞くのが一番いいと思って、方針をガラリと変えました」
卒団生のキャプテン指名で生まれた、子ども同士の深い絆

この決め方を始めて、今年で6年目。そこには大人の想像を超える、子ども同士の深い絆が副産物として生まれたという。
「学童野球は、6年生のためにあると僕は思っています。だから日頃から6年生には『あなたたちのために5年生や4年生が動いてくれているんだぞ』と伝えるし、下級生にも『6年生のために全力でサポートしよう』と言い続けています。そうして1年間を過ごすと、苦楽を共にしてきた6年生は、『この子に自分たちの想いを引き継いで、卒団したい』と、真剣に次のキャプテンを選んでくれるようになったんです」
同級生同士で選ばせると、どうしても人気投票になったり、遠慮が生まれたりしがちだ。しかし1つ上の先輩という客観的かつ一番近くで見てきた存在だからこそ、大人が気づかないような「あの子の本当の頑張り」や「リーダーシップの芽」を見抜くことができるのだという。
実際に、卒団生たちが選んだ2026年のキャプテンの小泉心乃(こいずみ・ここの)さんは、小柄ながらもグラウンドを誰よりも走り回り、声を出す元気いっぱいな選手だ。
「先輩が後輩を指名する」バトンリレーは、チームを去った後にも効果をもたらす。中学生になれば、新しい環境で誰もが忙しくなり、少年野球時代のことは少しずつ遠ざかっていくもの。しかし「自分が指名したキャプテン」が率いるチームだからこそ卒団生たちも気にかけるそうで、「今年のチームはどうかな?」「あの子、ちゃんとキャプテンやれているかな」と、ふらりとグラウンドに顔を出したり、応援し続けたりする流れが代々生まれていくそうだ。
親や指導者から、与えられた役割ではなく、尊敬する先輩から託されたバトン。この仕組みは子どもたちに適度な責任感を与え、卒団後も心の拠り所となるような、信頼関係を育んでいることがわかる。
家での「反省会」は絶対にしないでほしい
原田監督は、保護者との約束事としていることがあるという。
「保護者の皆さんには、家で野球の話はたくさんしていいけれど、反省会だけはしないでくださいと伝えています。良かった、ダメだった、を伝えるのは僕ら指導者の役割。試合で打てなくて落ち込んでいる子に、家でも反省の弁を言わせたり話し合ったりしたって、子どもの耳には絶対に届きません」
感情の浮き沈みがあるときこそ、叱咤激励するのではなく、ありのままの姿を受け入れてほしい。そして、本人が「勝ちたい」「上手くなりたい」と思えば、自然と家でバットを振り始めると伝えている。
学童野球は、長い野球人生のほんの始まりに過ぎないもの。保護者の役割はダメ出しではなく、我が子が「今日も野球が楽しかった」と笑顔で帰ってこられる安心・安全な居場所を作ってあげること。野球が上手い子を目指す前に、まずは野球が大好きな子へ。原田監督の優しくも毅然とした眼差しは、大人の焦りがちな心に、本当に大切なものは何かを教えてくれている。
読んで理解したら、次は動画で習得する
少年野球指導に役立つ練習法や考え方を、実際の動きでも確認したい方は、First Pitchが連動している野球育成動画サービス「TURNING POINT」(ターニングポイント)をご活用ください。
通常は有料会員向けの指導ドリル第1話を、無料会員向けにも公開中です。さらに無料登録だけで、250本以上の指導・育成動画が見放題。メールアドレス・Google・LINEで30秒ほどで登録できます。
小・中学生の育成年代を熟知する指導者や元プロ野球選手など専門家70人以上が、打撃・守備・投球・走塁・体づくりまで、上達につながる練習法を動画で解説しています。
■TURNING POINTの特徴を詳しく見る




