東海大静岡翔洋中・寺崎監督の答え「1-0の試合はほとんどない」
掲げたチームスローガンは「打開」。静岡市にある東海大静岡翔洋中は、打撃を磨いて日本一への道を切り開いた。普段の練習は6割が打撃で、2~3割が走塁。1点失っても2点、3点を取り返す攻撃で、29年ぶりに全国中学校体育大会の軟式野球で頂点に立った。
ボールが変われば野球も変わる。2020年に東海大静岡翔洋中で2度目の監督に就任した寺崎裕紀監督は、2016年まで指揮した1度目の監督時代と同じチームづくりでは日本一になれないと感じていた。今から5年ほど前に中学軟式野球のボールはB球からM球に変更。ボールが2ミリ大きくなり、3グラム重くなったことで打球が飛ぶようになり、さらに各メーカーによるバットの開発が飛距離を伸ばした。
寺崎監督は自身が指導するチームの選手を観察し、全国の中学野球を観戦した結果、1つの答えを出した。「1-0で勝負がつく試合は、ほとんどなくなりました。B球だった頃は相手のエンドランやスクイズを封じると勝てる試合がありました。今は守備力を高めて1-0で勝つ試合を目指すより、攻撃を重視したチームをつくった方が勝てると考えました」。
昨年から練習の時間配分を大幅に見直し、半分以上を打撃にした。今年は走塁にも重点を置き、打撃と走塁を合わせた攻撃に割く練習時間は全体の8割以上まで増えた。
練習の中心はフリー打撃。投手との真剣勝負、直球のマシン、変化球のマシンと3か所用意し、選手がローテーションで打席に入る。ティー打撃の時間はあまりつくらない。寺崎監督は「選手が自分なりの感覚を掴むことが安打の確率を上げると考えています。練習では、選手ができるだけ色んな球を数多く打てるように心掛けています」と語る。
監督がベンチで“ぼやき”…次の塁を狙う意識チームで徹底
走塁では、相手投手のクセを見つけて二盗、三盗を狙うことや、変化球がショートバウンドになったらスタート良く次の塁を陥れることなどをチームで徹底している。実戦的な練習で走塁の技術や感覚を磨き、練習試合では寺崎監督が“ぼやき”で選手を育成している。
「ベンチの後ろ側から選手に聞こえる声で、『今の場面は次の塁に進めたな』『今は何でアウトになったんだろう』とつぶやいています。中学野球の魅力の1つは戦術にあると感じています。指導者が教えるほど選手は吸収しますし、高校野球にも生きてきます。盗塁できるかどうかの見極めをして、選手に次の塁を狙わせるのが監督の仕事だと考えています」
日本一を成し遂げた今夏の全国中学校体育大会でも、チームは5試合で27盗塁を決めて得点につなげた。ただ、新チームが結成したばかりの今の時期は、エンドランやバントといった細かい攻撃は練習しない。個の力を伸ばすことに特化し、打席では安打を打つ、塁に出たら単独スチールをする練習を繰り返している。
「自分の力で出塁や進塁ができるようになって初めて、打者と走者を組み合わせた戦術が生きてきます。打力がない選手だからエンドランやスクイズのサインを出すのではなく、ある程度、打って走れるようになってから細かい部分を取り入れていくと、戦術の成功率が上がると実感しています」
個の育成と野球脳の強化。東海大静岡翔洋は2つの要素を両立させて全国の頂点に立った。