上一色中学校野球部はなぜ強い? 公立から全国常連校へ…少年野球を改革する“仕掛け”

公開日:2022.10.04

更新日:2024.11.25

文:First-Pitch編集部

XFacebookLineHatena

日本一の監督も推薦、継続率93.9%!
少年野球に特化した育成動画配信サイト

 全国大会の常連校として知られる上一色中学校の野球部。西尾弘幸監督が率いるチームの特徴は、バッティング。毎年のように「強力打線」を築き上げ、甲子園に出場する強豪高校にも多くの選手を輩出しています。

 環境的にも限られた公立中学でありながら、強いチームを作り上げる要因はどこにあるのでしょうか。普段の練習から“仕掛け”が盛り沢山。指導者の皆さんが知りたいポイントを探っていきましょう。

目次

専門家プロフィール

    ○西尾弘幸(にしお・ひろゆき)
    1957年6月3日、東京・足立区出身。教員として1994年から勤めていた江戸川区立小松川第三中では都大会で5度優勝。2006年に江戸川区立上一色中に赴任し、全中では2度の準優勝。クラブチームも含む2012年全日本少年軟式野球都大会では、中学校のチームとして大会初の頂点に。2022年全日本軟式少年野球大会では初の日本一に輝いた。横山陸人(ロッテ)をはじめ、高校以降も活躍する選手を育てている。First-Pitchと連動している野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT(ターニングポイント)」でも、育成年代の野球指導に向けたトレーニング方法や理論を解説。

1. 中学軟式野球の強豪 上一色中学校野球部とは

 東京都東部、千葉県との境にある江戸川区は、多くの少年野球チームが存在するなど都内でもトップクラスの野球が盛んな地域。その中でも際立って存在感を放つ上一色中の特徴を見ていきましょう。

育成に定評、甲子園出場選手も輩出

 上一色中は選手育成に定評があります。専大松戸高(千葉)を経て2019年ドラフト4位でロッテ入りした横山陸人投手や、同じく専大松戸高から2021年ドラフト5位でDeNA入りした深沢鳳介投手らプロ選手を輩出。また、2023年の夏の甲子園に出場した共栄学園高(東東京)や専大松戸高には、それぞれ上一色中出身の3選手がメンバー入りしています。

西尾弘幸監督の指導方針

 中学軟式の名将として知られる西尾監督ですが、自身の野球経験は中学まで。逆に経験が浅いからこそ多くの人の声を聞き、強豪校の練習を視察し、独自の指導方針を築き上げてきました。チームの特徴は攻撃力ですが、「中学野球がゴールではない。その先で生きてくることを3年間で学んでほしい」と、高校以降にも生きる技術や心構えを指導しています。短時間集中で、選手の「上手くなりたい」という気持ち・自主性を引き出します。

2. 上一色中学校野球部はなぜ強い? 全国V達成の“秘訣”

 上一色中はなぜ全国大会の常連校となり、中学野球の頂点に立つことができたのでしょうか。基本的な練習での考え方と、優勝した全日本少年軟式野球大会での戦略から秘訣を探っていきましょう。

①「短時間集中」の練習で“質”が上がり結果に結びつく

 上一色中の練習時間は、平日は2時間、土日も4時間ほどで終わる短時間集中型。以前は土日になると朝から日が暮れるまでボールを追いかけていたそうですが、時間短縮に方針転換してから練習の質が上がり、結果も出せるようになりました。その分、西尾監督は打撃、守備、トレーニングなどのグループ分けをし、待ち時間ができないようにするなど、無駄や飽きが生じない工夫を凝らしています。

②「キャッチボール」は時間短縮せずに重視

 練習は短時間になりましたが、時間を短縮せずに重視しているのがキャッチボール。平日でも20〜30分かけて行う時もあります。西尾監督は「キャッチボールには守備の基本が詰まっています。塁間の距離で強く正確な送球ができるようになれば、守備力は確実に上がります」と語ります。

③選手自身に「考えさせる」環境をつくる

 西尾監督は、選手に「考えさせる」指導を大切にしています。例えば、打席でボール球を振って三振した選手に「なんであんな球を振るんだ」と叱る指導者もいますが、西尾監督は、打席に立ってストライクゾーンを確認する練習を選手に提案し、自分自身で感覚を修正させるようにしています。課題と向き合う環境をつくる姿勢が、選手とチームの成長につながっています。

④控え選手にも実戦の場…チーム力が格段に向上

 2022年の全国Vの要因の1つには、「控え選手のレベルアップ」がありました。かつてはレギュラーと控えを明確に分け、練習試合でも控えはサポート役にしていましたが、西尾監督は考え方を見直し、控え選手が実戦の場を踏む機会を増やしました。すると、紅白戦でレギュラーを負かす時もあるなど「(控え選手が)チーム力を格段に上げました」。大会でも2桁背番号の選手たちの活躍で、サヨナラ勝利をもぎ取った試合もありました。

3.上一色中学校野球部の指導法

 ここからは、具体的な技術指導について探っていきましょう。基本的な投げ方・打ち方を教える際、どのような特徴があるのでしょうか。

投げ方指導

   投球フォームについて西尾監督は、肩肘の怪我につながるリスクのある投げ方に注意を払いながらも、選手に合った形を尊重しています。修正点を繰り返し言葉で伝えると混乱を招くため、怪我を防ぐ投げ方が自然に身に付くメニューを実施。ゴロを捕球後すぐにトップをつくって送球する練習も、そのひとつ。捕球から送球まで上半身の動きを止めずにプレーを完結させることで、無意識に悪いクセを修正できるといいます。

打ち方指導

   6~7割の練習時間を打撃に割く「強力打線」で有名な上一色中は、「初球から積極的にフルスイング」が基本信条。西尾監督は、空振りすることで、次はバットに当てる率を高められる矯正能力が人間にあることを、データアナリストと共に分析。空振りしても「次、打てるぞ!」の声掛けがチームの合言葉になっています。スイング軌道については「バットを縦に入れて打球を上げる」が理想ですが、これも選手に合った形を尊重しているといいます。

4.上一色中学校野球部の独自トレーニング

 上記のような指導方針を基本としながら、選手の成長をさらに促すのが上一色中独自の練習法です。その一部を見ていきましょう。

見逃し練習

「初球からフルスイング」が信条ですが、2022年に日本一になった際は“見逃し練習”が効果を発揮しました。大会初戦の相手は、最速143キロを誇る森陽樹投手(当時3年)を擁する聖心ウルスラ学園聡明中(九州代表・宮崎)。未経験の球速に対応すべく、試合2週間前から、2台の打撃マシンをどちらも最速が出るように設定し、ホームベース寄りに設置。まず「目と体を慣れさせる」ために、最初の1週間は選手に一切バットを振らせず、タイミングを取って見逃すようにしました。

 初めはいつ足を上げるのか、どうタイミングを取るのか迷っていた選手たちは、日を重ねるにつれて慣れてきて、「先生、打てそうな気がします」という言葉が出てくるように。1週間前からは、マシン1台を見逃す練習、もう1台を打ち返す練習に使うと、鋭い当たりを飛ばす選手が増えていきました。そして、本番では4番の福原勘太外野手(当時3年)が本塁打を放つなどチーム4得点で見事に難敵を攻略しました。

ティースタンドを使った練習

 入学当初などでバットにボールが上手く当たらない選手に、西尾監督は「ティースタンドを使った練習」を勧めています。しかし、自分の打ちやすい場所にティーを置いても、動いている球への対応が難しくなりますし、遠くに飛ばすために腕が伸びる位置に置いても、手首を返して打つ悪いクセがついてしまいます。

 効果的な練習にするポイントは、右打者なら左膝、左打者なら右膝の前あたりの“スイング時にバットに当たる位置”にティーを置くことです。「肘をたたんだ状態でバットとボールが当たる位置にセットすると、レベルスイングの距離が長くなるので(実戦で)当たる確率が上がります」と語っています。

バントゲーム

 短時間で質の高い練習をするために、取り入れているメニューの1つにバントゲームがあります。通常のダイヤモンドよりも狭くしたり、アウトカウントや走者を設定したりして、打者は「バントだけで攻撃する」というものです。

 西尾監督は、「試合ではあまりバントをしませんが、守備や走塁に生きる練習です。塁間を狭くすると、守備側は無駄な動きがあるとアウトにできません。攻撃側は場面に応じて精度の高いバントが求められます。ゲーム感覚で楽しみながら、実戦的な動きや考え方が身に付きます」と練習の意図を説明しています。

5.上一色中学校野球部のまとめ

 都内にある上一色中のグラウンドは狭く、打撃練習もネットを張ってケージの代わりにして行っています。それでも、練習効率や選手への意識の持たせ方に工夫をすることで、全国レベルのチームを毎年作り上げています。「指導者が教え過ぎず、選手自身が考えて上手くなる環境をつくることや、上手くなる楽しみを知ってもらうことが大事」と西尾監督は語ります。

 限られた環境の中で成果を出す上一色中の練習法・指導法は、すぐに取り入れることができる部分も多いでしょう。指導に携わるチームが少しでもレベルアップできるよう、ぜひ実際にやってみてはいかがでしょう? 

 西尾監督も賛同・出演している野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT(ターニングポイント)」では、最先端の理論などをもとにした練習ドリルやトレーニングメニューが公開されています。無料で250本以上の動画が見放題指導者の“強い味方”として、多くの指導者から支持されています。

■西尾監督をはじめ、専門家50人以上が参戦 「TURNING POINT」とは?

■TURNING POINTへの無料登録はこちら

https://id.creative2.co.jp/entry

トレンドワード