憧れられる1位でも…野球選手が「全てではない」 筒香嘉智が育成で求める“人物像”

文:喜岡桜 / Sakura Kioka

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少年・少女育成に尽力…筒香が語る「イレギュラー」への対策術

 MLBジャイアンツ傘下でプレーする筒香嘉智外野手が、地元・和歌山県橋本市に野球施設「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」を創設、昨年12月に竣工式が行われた。同施設を練習拠点にする少年野球チーム「和歌山橋本Atta boys(アラボーイズ)」に所属する選手たちが“将来の夢”を発表する場が設けられていたが、そこで筒香が語りかけたのは「野球選手になることが全てではない」ということだ。

 毎春、小学校を卒業した6年生を対象としたアンケート調査をもとに、ランキング形式で発表される「将来就きたい職業」(株式会社クラレ実施)。昨年7月に公表された最新の調査では、「スポーツ選手」が3年連続で1位になった。さらに競技別に見てみると、男子では野球(40.3%)が2020年以来3年ぶりにサッカー(25.4%)を上回り、トップに返り咲いた。ワールド・ベースボール・クラシック優勝や大谷翔平投手の活躍の影響も大きいのだろう。

 小学1年生の男の子は「僕はこの4月から野球を始めて、アラボーイズのみんなが仲間になりました」と切り出し、楽しみながらも、フライキャッチやゴロの練習に力が入っていることを明かした。そして、「将来の夢はプロ野球選手になること。そのあとはユーチューバーになって、野球の動画をたくさんあげて、野球の仲間を増やします」と決意表明した。

 他の選手からも「野球がもっと上手くなりたいので体操も習い、筋肉を付けたいので柔道も習い始めました。大きくなったらプロ野球選手と柔道選手になります」と“二刀流”宣言が飛び出すなど、さまざまな夢が、力強く語られた。

人生は思い通りにいかない…乗り越える秘訣は“準備と手札”

 それに対し、チームのオーナーでもある筒香は、育成方針について「野球選手になることが全てではないと思っています」と言及。小学生たちは意表を突かれた様子だったが、強く考えているのは、野球に限らず「日本全国に向けてメッセージが発信できるような人材が出てくることが第一」ということだ。

 筒香自身、以前から少年野球界の“旧弊”に警鐘を鳴らし、今回の少年野球チーム立ち上げ、私費2億円を投じての施設創設と自ら行動することで、メッセージを発信してきた。

 とはいえ、信念を貫くための道は険しい。「自分が描いている通りにならないことも、たくさんあります」と、多くの困難に直面してきたと筒香は語る。

 2019年オフにDeNAからメジャーへ移籍。3年間でレイズ、ドジャース、パイレーツの3球団を渡り歩き、パイレーツを自由契約後も日本からの獲得オファーを断り、マイナーリーグでプレーした。レンジャーズ傘下で開幕を迎えた昨季は、6月に3試合連続本塁打を放ち、自らオプトアウト権を行使。だが、次の所属先がなかなか見つからず、一時は米国の独立リーグで汗を流した。

 さらに、今回の施設建設やチーム創設においても、語りきれないほど「イレギュラーなことがたくさん起きた」と明かす。「それに対処(しながら前進)するというのは、僕の野球人生にすごく当てはまると感じました。イレギュラーは、なかなか予測できないですが、どれだけの事前準備ができているか、手札をどれだけ持っているかで対処レベルは上がると思います」。

 今季で米国生活5年目を迎える筒香。野球を続けるにせよ、他の世界を目指すにせよ、子どもたちが将来、大きな障壁に惑わされないための育成方法の探求に力を注いでいく。同時に、ジャイアンツ傘下から世界最高峰の壁に立ち向かう強さを、子どもたちへ、大きな背中で示してくれるだろう。