米国を知る監督が危惧「楽しむを履き違えている」 中学で“圧倒的量”をこなすべき理由
日米球界を経験した兵庫フロッグスポニー・妹尾克哉監督…指摘する米国野球への“誤解”
質も大事だが、技術を身に付けるには圧倒的な量が必要——。今年1月、兵庫県姫路市に設立された新進気鋭の中学硬式野球チーム「兵庫フロッグスポニー」(以下兵庫フロッグス)では、選手たちが自らを追い込み、時には涙を流しながら練習に没頭する。指揮を執る妹尾克哉監督は「選手にとって何が一番大切か。今の野球界は少し間違った方向に向かっている」と警鐘を鳴らす。
練習がスタートすると、雑談していた子どもたちの表情が一瞬にして変わった。ウオーミングアップは個々で淡々と行い、自重トレーニングでは全員が全員をライバル視し、徹底的に追い込む。基本的にチームプレーは全体練習のごくわずか。個人のスキルを上げるため、1人1人が自身の課題を消化していく。
妹尾監督は日米の独立リーグを経験し、現役時代はドラフト候補にも名前が挙がるほどの選手だった。特に米国での経験は衝撃を受けたようで「練習時間が短い。そこだけが注目されますが、実際は違います。選手は全体練習以外で驚くほどの量をこなしている。体格の違いはもちろんありますが、見えないところで誰よりも努力している。日本の野球も昔に比べると変わってきているが、『楽しく』の意味を履き違えている気がします」と指摘する。
ここ数年で少年野球界は大きな変化を見せている。罵声・怒声が当然で根性重視の“昭和野球”から、明確な理論や技術を取り入れ、無駄を省く効率のいい練習を行う“令和野球”にシフトし、「エンジョイベースボール」という言葉も浸透した。
選手と一緒に指導者も体を動かしドリルに参加「子どもたちが自分で考えて動く」
「簡単に情報も得られる時代になり、すぐに結果を求める選手や指導者が多くなりました。しかし、打撃フォーム、投球フォームをマネするだけで、その選手にはなれない。技術を得るためには量をこなせる体力、フィジカルが必要です。誰よりも練習をした自負があるから“楽しい”が生まれる。そこを履き違えてはいけないと思います」
もちろん、指導者側から強要するわけではない。どのような高校野球生活を過ごすのか。そのために中学3年間で必要なものは何なのか。個々が思い描く選手像に近づくため、子どもたち自身が手を抜くことはない。妹尾監督やコーチ陣も一緒になって体を動かし、フィジカルを上げるドリルでは涙を流す選手もいるという。
「1人がやりだすと周りも『アイツがやってるから負けられない』という雰囲気になってますね(笑)。こちらから無理にやらすことはしません。子どもたちが自分で考えて動いています。指導者は怪我をしない境界線をしっかり見極めて、判断してあげることが大事になる。僕たちのチームは質も高いですが、量も大切にしています」
少年野球界に今も存在する“しがらみ”は排除し、野球を続けるために必要なスキルを上げることにフォーカスする指導法は、選手、保護者にも好評だという。すでに2期生のセレクションも始まっているが、野球の上手・下手では判断しない。妹尾監督は「僕たちと一緒にやりたい“熱量”が一番のポイント。責任を持ってサポートすることが指導者の役目」と力を込める。酸いも甘いも経験した若き指導者が、将来の野球界を担う子どもたちを輩出していく。
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