野球界の課題「カテゴリー別の取り組みが多い」 競技人口減阻止へ、鍵握る“一貫性”

公開日:2024.07.06

文:佐々木亨 / Toru Sasaki

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都市対抗V経験の名門社会人チームによる、“異例”合同野球教室開催の意義

 社会人野球のビッグトーナメントである都市対抗野球大会において、NTT東日本は2回、日本生命は4回の優勝を誇る。そんな東西の名門チームが、軟式野球チームに所属する約100人の小学生を対象とした合同野球教室を、6月29日、千葉県船橋市で開催した。シーズン中では異例の試みとなったその企画に大きく携わった1人が、NTT東日本の前監督で、現在は同社のスポーツ推進室で働く飯塚智広氏だ。

 2000年のシドニー五輪では日本代表としてプレー。2014年からNTT東日本を率いると、2017年の第88回都市対抗野球大会ではチームを優勝に導くなど、数々の実績を残してきた飯塚氏は言う。

「社会人野球に携わる者としても、日本生命さんとの今回の企画は、意義のあることだと思っています。合同で開催したこともそうですが、選手たちが真剣勝負を続けるシーズン中にできたという点でも、今回は良い機会になりました。両チームによるオープン戦では、実際に子どもたちにベンチに入ってもらいました。グラウンドレベルで、選手目線でゲームを見る中で、選手たちの体の大きさや1つ1つのプレーのスピードを感じ取ってくれたと思います。そういう実体験もまた、子どもたちにとっては良い経験になったのではないでしょうか」

 技術指導に加えて、野球を通した人と人との繋がり、または地域との繋がりをより深めるための活動。野球教室には、その一端を担う意味合いもあるだろう。その上で、今回の合同野球教室を開催した背景には、野球界が持つ「危機感」に対するアプローチという観点もあると飯塚氏は言う。

指導した社会人選手たちは「確かな目的を持って接してくれた」

打撃のデモンストレーションを行う社会人選手たち【写真:佐々木亨】

 夏の甲子園大会など、高校野球の解説もする飯塚氏は、多くの野球現場を見る機会が多いのだが、球界全体としての一貫性が必要だと感じている。

「野球界はカテゴリー別の取り組みが多いのが現状だと思います。それぞれのカテゴリーで『勝ちたい』と思うのは当たり前でしょうが、たとえば、野球の楽しさを伝えていく年代、戦術を覚えていく年代、そして総合的に野球をする年代。そういった流れの中で、野球を続ける人が、より増えてくれるとうれしいですね」

 野球の間口を広げる。つまりは、野球そのものの普及活動は、競技人口の減少を食い止め、将来的には増加に繋がっていくだろう。その上で「野球を続ける人」が増える環境整備、または競技者や指導者、そこにあるチーム作りに関わる多くの人たちのマインドが変化していくことも必要ではないか。飯塚氏は改めて言うのだ。

「合同野球教室では、野球を純粋に楽しむ子どもたちの笑顔がたくさん見られました。また、指導してくれた社会人野球の選手たちは企画の主旨をしっかりと理解して、確かな目的を持って子どもたちと接してくれました。そういう意味でも、今回の企画を実現した意義はあったと思います」

 この取り組みが、野球界全体が変わる1つのきっかけとなる。普及と変化が助長されていく中で、新たな潮流が生まれていくことを願うばかりだ。

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