消えた地上波中継…「壁当てもしてたのに」 野球離れ阻止に不可欠な“接点づくり”

公開日:2024.03.13

文:内田勝治 / Katsuharu Uchida

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環境は変化しても…野球教室で岩隈久志さんが語った“野球感覚を養う”工夫

 元メジャーリーガーが本気で憂うのは、日本の野球少年たちの未来だ。近鉄、楽天、マリナーズで日米通算170勝を挙げた岩隈久志さん(マリナーズ特任コーチ)が9日、同じく元メジャー投手のマック鈴木さんと共に、東京・渋谷区の代々木大山公園で開催された、メジャーリーグベースボールジャパンのイベント「PLAY BALL」に登場。未就学児から小学4年生までの約250人に向けて、野球教室を行った。

「いいね~」「ナイス!」「肩強い!」

 未就学児の投球ゾーンでは、岩隈さんの称賛の声が飛ぶ。右投げなのに右足を前に出して投げる子にも、「投げる時は左足を前に出して投げてみよう。そう! いいよ、そんな感じで投げるんだよ」と丁寧かつ優しく指導。子どもたちにも自然と笑顔があふれた。

「すごく楽しかったです。まだ小学生に上がる前の子たちは、野球チームにも入っていないと思うんですけど、“野球に触れる”という、この時間がよかったですね」

 野球に触れる。昔であれば、それはごく普通のことだった。テレビでは当たり前のようにプロ野球の試合が放送され、近所の空き地や公園に行けば、誰かしらがキャッチボールをしていて、人数が集まれば、即興で試合が行われた。岩隈さん自身も、父がテレビでつけていたプロ野球中継を見て「カッコいいな」と思ったのがきっかけで野球を始めた。

 しかし、今は地上波で野球中継をしていること自体がまれ。公園では、キャッチボールはおろか、球技すらも禁じているところも少なくない。野球に触れる機会は、確実に少なくなっている。

「軽くて柔らかいボールなら、家の中でも打つことができる」

参加者の前でキャッチボールを披露する岩隈氏。左奥はマック鈴木氏【写真:内田勝治】

「僕らの時代は公園でキャッチボールもできたし、野球もできた。最初ボールが捕れなくても、必死になって捕ったりだとか、投げて楽しいとか、そこから始まって好きになっていきました。毎日のように壁当てとかもやっていましたけど、今は野球ができない環境もあるので、難しいですけど……」

 そんな“向かい風”の状況でも、日常生活の工夫次第で突破口は切り開ける。大切なのは「毎日のようにボールに触れること」だと岩隈さんは言う。

「軽くて柔らかいボールなら、家の中でも打つことができる。お父さんやお母さんにも協力してもらいながらキャッチボールをしたり、そういう感覚を養うだけでも、また楽しさがどんどん出てくる。そこでチームに入ってやってみたいという気持ちが出てくると思うし、そうやって野球人口が増えてくれたらうれしいですね」

 岩隈さん自身も、2022年に中学硬式チーム「青山東京ボーイズ」を立ち上げるなど、野球少年の育成に力を入れている。願いは、一人でも多くの子どもたちが野球を始め、長く続けてもらうこと。日本野球の未来のために、日米で培った豊富な経験を余すことなく還元していく。

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