大谷翔平は「1年ずつ成長した」 父が重視する伸びしろ…実戦想定で培う“考える力”
大谷翔平の父・徹氏が監督を務める岩手・金ケ崎リトルシニア
岩手県の内陸部、北上市と奥州市に隣接する金ケ崎町に、中学硬式野球クラブの「金ケ崎リトルシニア」が創設されたのは2014年4月のことだ。岩手県立農業大学校の敷地内にある、通称「農大グラウンド」をホームグラウンドとするチームは、2017年の全国選抜大会に出場した歴史を持ち、2023年度の部員数は3年生12人、2年生20人、1年生23人の計55人。県内では評判のシニアチームとして活動する。指導者はコーチ4人、チームを率いるのは創設当初から変わらない大谷徹監督だ。
「息子の翔平がプロに入ったり、私自身も社会人野球(三菱重工横浜)までやらせてもらって、野球に対して感謝しています。そんな感謝の気持ちがあって、チームを立ち上げようと思いました」
今やメジャーで活躍する大谷翔平選手の父でもある大谷監督は、自らの中学時代を思い起こしながら、クラブチームの創設についてこうも語る。
「私自身、中学時代(軟式)は本格的に野球の技術指導をしてもらったことがなくて『教えてもらいたかったな』という思いがあった。だから、今の中学生にとって手助けになることをしたい。そういう思いもありました」
創設当時は、金ケ崎町を拠点とする社会人野球のトヨタ自動車東日本が創部したばかり(2012年創部)。その時流と相まって、さらに地域貢献を目標に掲げながら、同チームと同様の赤を基調としたユニホームで金ケ崎リトルシニアは出発した。
チームとしての勝利を求めながらも「先を見ることが大切」
創設9年目を迎えた今も、大谷監督が求めるものは変わらない。「考える力」の追求だ。
「野球の技量を高めるだけではなく、思考、考え方の部分を育てたいと思っています。時にはガムシャラにやることも大事です。ただ、野球のルールも含めて、フライ時の対処法など、つまり野球の基本的な動き方や判断力を中学生のうちから身につけてほしい。その上で、投げて打つといった基本的なことができるようになり、高校でさらに力をつけてほしいと思うのです」
体つきや技術にしても、すでに中学時点で「できあがっている」、つまり早熟な選手が多い現代野球の中でも、大谷監督は選手たちの「伸びしろ」を常に考える。いかに中学時代の経験を、次のステージにつなげていくか。もちろん、チームとしての勝利を求めながらも、「今じゃない、先を見ることが大切」という指導理論の下、考える力を鍛えるのだ。
「中学時代の翔平は身長こそ高かったのですが、体の線は細かった。決して早熟ではなく、1年ずつ成長していった感じがあります」
金ケ崎リトルシニアの練習は、ケースノックやケース打撃など、実戦を想定した練習が多い。雪が積もるオフシーズンは、近隣の小学校の体育館を改装した室内練習場で打撃に特化した打ち込みがメイン練習となるが、2月になれば、県内では温暖な気候の沿岸地域に隔週で訪れ、土の感触も確かめながらシーズンに向かっていく。そして、春になれば実戦練習を繰り返して各大会に出場する。その年間の流れでも、選手たちは考える力を養う「頭の訓練」を継続して行うのだ。