競技人口減少につながる“部活動衰退” 中学野球の転換期…「軟式」こそ担える役割

公開日:2023.11.05

更新日:2024.06.10

文:大利実 / Minoru Ohtoshi

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全国4強、相陽中の内藤博洋監督「前向きに取り組んでこそ強くなる」

「少子化」「働き方改革」「部活動ガイドライン」「地域移行」。この4つが複雑に絡み合い、中学校の部活動は大きな転換期を迎えている。今年の全国中学校体育大会から地域クラブの参加が認められ、長く続いた「学校対抗」が終わりを告げた。それは同時に、学校単位ではチームを組むのが難しい時代になったと言える。

 現場の指導者は、部活動を取り巻く環境をどのように見つめているのか。昨年、全日本少年春季軟式野球大会でベスト4に入るなど、神奈川をリードする強豪・相模原市立相陽中を率いる内藤博洋監督は、新たな取り組みを始めている。

 今年から、内藤監督は「相陽クラブ」を立ち上げ、学区関係なく、野球をやりたい子どもたちを受け入れるようになった。電車やバスを使って、1時間以上かけて練習場所に通う選手もいる。相陽中として放課後は週2日活動し、相陽クラブとしてナイター練習を週2日ほど行っている。

「野球をやりたくても、自分が通っている学校では存分にできない……という声が増えてきたのもあって、クラブチームを立ち上げることを決めました。今までは学校単位で活動することにこだわりがありましたが、子どもの数も減ってきて、そうは言ってはいられない現状があります。できるかぎり、野球ができる環境を作ってあげたい。私はまだ、日本一にはなれていませんが、全国のどの指導者よりも『野球が好き』ということには自信を持っています」

「きつい練習に耐えて強くなる」ではなく、「好きなことに前向きに取り組んでこそ強くなる」が、内藤監督のモットーだ。その大前提として、指導者自身が野球を心から楽しんでいなければ、その魅力は伝わっていかない。

異学年の交流が日常的に行われるのも部活動の良さ

相陽中の内藤博洋監督【写真:伊藤賢汰】

 

 クラブチームを創設したが、放課後の練習は継続して行っている。1時間にも満たない活動時間でありながら、1球やワンプレーの間合いを詰めて、質と量の両方を高めることに力を入れる。

「女子生徒に、『野球部が練習していないと、グラウンド全体に活気がなくて寂しいです』と言われました。学校に部活動があることで、学校全体に活気が生まれるのは間違いありません。野球部の練習がない日には、ほかの部活動を回って見ているのですが、学区の幼なじみの子どもたちが互いの成長に刺激を受けながら切磋琢磨している。その姿を見ると、教員として非常にうれしくなります」

 さらに言えば、異学年の交流が日常的に行われるのも部活動の良さだという。「先輩」という身近な手本がいることが、心身ともに成長期真っただ中の中学生には大きな刺激となる。

 部活動が転換期を迎えていることもあり、シニアやボーイズなどの硬式クラブを選ぶ小学生が増えている。「部活に入っても、満足に野球ができない」という理由からだ。

初心者に優しい軟式野球…「友達を作ってみたいな」という気持ちで

 こうした流れの中で、中学時代に軟式野球をやる意味はどこにあるのか――。

 そもそも、校庭で練習することが大前提となると、公立中の部活動では軟球しか使えない事情もある。

「軟式野球の優れたところは、“ライト”に楽しめるところです。初心者の子でも、ボールが当たる怖さがさほどないので、キャッチボールができます。野球人口の減少が問題になっていますが、部活動が衰退していけば、より減っていくのは間違いありません。『ちょっと野球をやってみたいな』『友達を作ってみたいな』という軽い気持ちで入部できるのが、部活の良さでもあるのです。初心者の子が、いきなり硬球でキャッチボールをするのは、ハードルが高いように思います」

 技術面で考えると、軟球のほうがボールを捉えたインパクトの瞬間にボールが潰れるため、打球が飛びにくい。バットの芯を少しでもずれると、フライやゴロになる。でも、「だからこそ面白い」と内藤監督は考えている。

「バットの芯でボールの中心を捉える技術を養えるのが、軟球の良さです。パワーを付けるのは、高校に入ってからで十分。いかに、的確にコンタクトする力を身に付けるか。また、投げることを考えても、硬球よりも軽くて柔らかいボールを投げることで、しなやかな投げ方が身に付きやすいように感じます」

 野球人口の底辺を拡大する意味でも、軟式野球、そして部活動が果たす役割はとても大きい。今後も内藤監督は相陽中、相陽クラブの指導者として、中学野球にエネルギーを注いでいく。

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