「ボールをよく見て」の打撃指導は「世界が狭まる」 野球上達に不可欠な“両目連携”

公開日:2025.04.16

文:内田勝治 / Katsuharu Uchida

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スポーツビジョントレーナーの上坂実氏「凝視することで見えなくなる世界が出る」

 打者が打席に向かう前、顔の前に出した両手の親指を目で追う仕草を見たことはないだろうか。一流プロのみならず、アマ選手も「ビジョントレーニング」を行う光景が広まりつつある。First-Pitchでは少年野球などのスポーツ界で活躍する専門家・トレーナーに子どもの「運動神経向上」をテーマに取材。スポーツビジョントレーナーの上坂実さんは、「試合前、あるいは打席前などに目をしっかり動かしておくことで、体がリラックスして緊張が緩和するなど、メンタルのコントロールにも生きてきます」と効果を説明する。

 野球選手にとって目はとても大切な機能の1つ。いくら身体能力が高くても、目がうまく機能しなければ、投手の制球力や、打者のミート力、守備力も著しく低下する。ビジョントレーニングは、パフォーマンス向上のみならず、バランス感覚の改善や脳の活性化にもつながるため、怪我予防の観点からも有効的だ。

「ビジョントレーニングは目の周りの筋肉を一生懸命使うので、最初はすごく疲れます。例えば、腹筋をやったことがないのに10回やると疲れますよね。眼球運動もそれと一緒で、慣れればスムーズにできるようになります。ただ、脳が活性化するので、寝る直前にやるのはあまりお勧めしません」

 ウエートトレーニングなどで体の筋肉を鍛えるように、目の筋肉も鍛えなければ、機能は低下する。ビジョントレーニングは、野球選手はもちろん、幼少期から日常的に取り組んでおいて損はないと上坂さんは主張する。まず入り口で大切なこととして、「利き目を知ること」を挙げる。

「まずは両手で小さな三角形を作り、目標物を枠内に入れた後、片目ずつ閉じて、変わらず見えている方が利き目です。人間は右目と左目で情報を均等には扱っておらず、ほとんど利き目の世界を映像として見ています」

「周辺視野」を広げることで、投球に対しての反応が格段に良くなる

スポーツビジョントレーナーの上坂実氏【写真:編集部】

 例えば右打者で利き目が右目の場合、捕手側が利き目となるため、どうしても体が開きがちになるという。しっかりと両目を動かし、視野を広げていくことで、体の動きも変わっていくという訳だ。

 ビジョントレーニングとしては、両手の親指を立てた状態で顔の前に置き、眼球を動かしながら左右を交互に見るドリルが一般的。慣れてくれば両手を広げたり、上下、前後と親指の位置を変えたりするなどして、両目の“チームワーク”を高めていく。

「利き目を知ることで、そちらを鍛えましょう、ということではありません。利き目じゃない方の目も鍛えることで、両目で見る力を高めていくことが大事になります」

 ビジョントレーニングを行うことで「ボールをよく見て打て」という指導の弊害を取り除くことも可能だ。目を動かさずに一点を凝視した時、約30度以内の視野を「中心視野」というが、日常から目をしっかりと動かすことで、それよりも外側の「周辺視野」が広がり、投球に対しての反応が格段に良くなる。

 家でもできる簡単なトレーニングとしては、前方を見つめた状態で、両手に持ったボールを軽く上に上げてキャッチするドリルがお勧め。顔の前であれば簡単に捕れるが、両手の角度を広げるたびに難易度は増し、周辺視野が鍛えられる。

 上坂さんは野球選手に限らず、JR東海の運転士や車掌に対してビジョントレーニング講習会を定期的に実施。信号や飛び出しに対しての反応が格段に上がったという。

「ボールを凝視しすぎると、微妙な力みが入って逆に反応が遅れたり、見えなくなってしまう世界が出てきます。最近では“全体像をボヤッと見なさい”と教える打撃指導も多いですね」と語る上坂さんは、21日から開催されるイベント「運動神経向上LIVE」に出演予定。ビジョントレーニングの「いろは」を徹底的に伝授する。

上坂実さんも登場…子どもの運動神経向上に役立つトレーニングを紹介!

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