“控え出身”が主力、優遇なしでも「異例の勝ち数」 強豪国立大のユニーク人材登用
全日本大学選手権で今年も勝利…和歌山大は1プレーごとに事細かに検証
全国各連盟の春季リーグで優勝したチームが集まり“大学日本一”を争う「全日本大学野球選手権」は今年、和歌山大が1回戦の広島経済大に3-2で競り勝った。2回戦では東日本国際大に0-1と惜敗し、国立大で4校目となる“1大会2勝”を逃したが、2017年と2021年にも1勝ずつ挙げており、国立大では異例の強さを誇っている。
所属する近畿学生野球連盟の春季リーグで2季連続6度目の優勝を果たし、2年ぶり4回目の選手権に駒を進めた和歌山大。国立大でありながら、コンスタントに強さを発揮できるのはなぜか。
理由の1つは、身上のノーサイン野球にある。試合中の作戦を選手間のアイコンタクトなどに任せ、対応力や判断力を磨いているが、単なる放任ではない。
大原弘監督は「普段の練習では事細かくやっています。紅白戦をワンプレーごとに止めて、『なぜ、そこで走者はスタートを切らなかったのか?』などを1つ1つ検証することもあります。オープン戦終了後、選手間のミーティングが1時間以上に及び、初回から振り返っていくこともよくあります」と明かす。
今大会でも反省点は数多く残った。例えば東日本国際大戦の、両チーム無得点で迎えた6回の攻撃。先頭の1番・伊東太希内野手(3年)が死球で出塁すると、続く2番・丸山椰尋外野手(4年)のカウント0-1からの2球目にヒットエンドランを敢行したが、裏目に出て二直併殺。貴重な先制機を潰した。
大原監督は「チャンスが少ないことはわかっていましたから、もっと積極的に仕掛けてほしかったですね。打者は初球を何の構えもせずに見送り、ストラクトを取られましたが、仕掛けるなら初球から行くか、もしくは初球に何らかの動きをして揺さぶっておくべきだったと思います」と指摘。こうした1プレー1プレーが、秋へ向けての教材となる。
「“和歌山大でやりたい”と言う生徒を、どれだけ増やせるかが勝負」
和歌山大はスカウティングも特徴的だ。1、2回戦に2日連続で先発した左腕・島龍成投手(4年)は大阪・履正社高出身。新型コロナウイルスの感染拡大をうけて甲子園大会が中止となった3年の夏には、背番号18をつけて大阪府の独自大会でベンチ入りしていた。4番の山田孝徳内野手(4年)は奈良・天理高の控え捕手だった。
全国に名を知られる強豪高校の主力は、東京六大学や東都大学などの有名リーグ、もしくは関西の強豪私立大学へ進むケースが多い。和歌山大が狙うのは、強豪の控えレベルの選手たちだ。
とはいえ、学費免除などの優遇措置はない。大原監督は「『和歌山大学で野球をやりたい』という生徒をどれだけ増やせるかが勝負。ある高校の指導者の方は、うちのやり方を『スカウティングではなく、ブランディング』と表現してくださいましたが、その通りだと思います」と熱意を込めて口説く。
最近は「和歌山出身の子が県外の高校に進み、『地元で全国大会を狙いたい』という気持ちで来てくれるケースも増えている」そうだ。
一方で公立高校出身者も多く、東日本国際大戦に先発出場した選手の出身校を見ると、1番打者がソフトバンク・小久保裕紀監督らを輩出している星林高、2番は大原監督が「歌手の坂本冬美さんの母校です」と注釈をつける熊野高、3番は戦前に夏の甲子園2連覇を達成した海草中学をルーツに持つ向陽高で、いずれも和歌山県立校だ。
また、今大会では登板機会がなかったが、出場全大学の登録選手の中で最も低い身長161センチの野村倫暉投手(4年)もベンチ入りしていた。個性的な選手たちが、大原監督や仲間とともに日々成長する姿がうかがえる。
そんな和歌山大硬式野球部は、今年で創部100周年。2008年の就任当時は近畿学生野球連盟3部だったチームを、1部優勝争いの常連に育て上げた大原監督は「当初“歴史はあっても伝統がない”状態だった野球部に、伝統が生まれつつあると思います」と手応えを感じている。「秋の明治神宮大会で、まだ見たことのない景色を見られるように、もう1度チャレンジします」と全国の舞台に戻ってくることを心に誓った。