甲子園奪われた“悲劇の世代”は「ひと味違う」 痛み知る心…抜きん出た結束力
沖縄・八重山高校出身…砂川羅杏と比嘉久人は大学4年で悲願の“全国舞台”
今月10日から開催中の全日本大学野球選手権。全国の各春季リーグを制したチームが集まり“大学日本一”を決める大会だが、現在の4年生は高校3年の夏に、新型コロナウイルスの感染拡大で甲子園大会が中止となった世代だ。全国大会に特別な思いを抱いている選手が多い。
共栄大の砂川羅杏(らいあん)投手と比嘉久人捕手の4年生バッテリーは、沖縄・石垣島の八重山高時代からコンビを組んでいる。11日に神宮球場で行われた1回戦・関学大戦では、先発した砂川が7回途中2失点と好投したが、打線は相手の継投にかわされ、1-2で惜敗した。
砂川は「全国大会のレベルの高さを痛感した試合でした。立ち上がりに制球が定まらない中、甘く入った球を見逃さずに打たれました。相手が一枚上でした」と脱帽。初回2死三塁で打たれた先制左前適時打、3回に浴びた右翼へソロ本塁打は、いずれも「左打者に対しては生命線」と言う得意のチェンジアップを、左打者にとらえられたものだ。
砂川は八重山高3年だった2020年の夏、比嘉とのバッテリーで沖縄大会で初優勝。決勝では未来沖縄高を4-2で破った。しかし新型コロナのために、甲子園はなかった。ちなみに石垣島には、西武・平良海馬投手らの母校で過去に春・夏1度ずつ甲子園に出場している八重山商工高があるが、八重山高はいまだ聖地の土を踏めていない。
「高校時代に行けなかった全国大会へ行きたいという、強い気持ちがあって大学でも野球を続けることを決めたので感慨深いです」と砂川。高校時代からバッテリーを組む比嘉とは「だいたい自分が投げたい球種のサインを出してくれますし、僕が首を振った時には意図を読み取ってくれます。意思疎通ができています」と信頼し合っている。
相手の関学大監督も実感「この世代はすごく団結している」
比嘉とともに埼玉県春日部市の共栄大に進学した砂川は、最終学年を迎えた今年、東京新大学野球連盟の春季リーグで6試合3勝1敗、防御率1.48と奮闘し、チームを優勝に導いた。4番を務める比嘉は打率.314をマークしMVPに輝いた。
砂川と比嘉の絆は、相手の関学大の本荘雅章監督も感じ取っていた。「試合の後半にストレートを増やして、配球パターンを変えた気がしました。投手も完全に応えていましたね。接戦ではなかなか投げ込むことが難しいインコースにもどんどん放ってきていて、『比嘉くんが要求したら投げられるのだな』と感じました」と述懐した。
さらに本荘監督は「実はウチでも、現在の4年生はすごく団結していて、発想がひと味違います」と語る。「『自分たちの代で勝ちたい』とだけ考えるのが普通ですが、彼らはチームが少し低迷していた中で、『もし今年負けても、来年や再来年に戦えるチームをつくっていきたい』と言ってきました。僕の経験にはなかったことですし、素晴らしいと思っています」と称える。
高3の夏に甲子園を奪われたつらい経験が、後輩へ希望をつないでいく雰囲気を生み出しているのだろうか。
初の全国大会を初戦敗退で終えた砂川は、「あと一押しができなかった。秋にもう1度全国大会の舞台に戻ってきて、勝ち切りたい気持ちになりました」と新たな目標を掲げた。“悲劇の世代”にも、大学で新たな野球の楽しさを発見した選手たちがいる。