野球は「命令で動く従順なスポーツ」 部員25人→150人激増をもたらした“新焦点”

文:First-Pitch編集部

XFacebookLineHatena

多賀少年野球クラブ・辻正人監督が明かした部員増の理由

 野球をする子どもの保護者は、子どもと指導者に何を求めているのか――。全国大会で3度の優勝を誇る滋賀の学童軟式野球チーム「多賀少年野球クラブ」の辻正人監督が28日、野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」が実施するオンラインイベント「日本一の指導者サミット2025」に出演。保護者の意向に沿った指導・育成の重要性について考えを明かした。

 指導歴37年の辻監督は10数年前まで、部員確保に頭を悩ませていたという。当時の部員数は25人程。辻監督は「『強さ』が親御さんの信頼を得ることにつながると思っていた。勝つことで部員が増えるはずが何年経っても増えず、『野球人口が減っている』と言われ始めるもっと前から不安でした」と振り返る。勝ち続けても部員は増えない。それに気づいた時、「子どものため、ということよりも、親御さんが何を求めているかという部分にフォーカスを当てよう」と思い立った。

「親御さんが子どもに何を求めているかというと、自分で考えて行動すること。サッカーもラグビーもテニスも卓球もバレーボールも、監督はサインを出していない。現場で判断して現場で解決している。野球を『かっこいい』と感じてスタートするのはいいのですが、野球が命令で動く従順なスポーツである以上、それを求めない親御さんは出てくるはずです」

 野球というスポーツの性質を踏まえ、「教育」の要素を採り入れようと考えた辻監督は、方針転換を図った。その一例が「ノーサイン野球」だ。ただ単にサインを与えないというだけではなく、選手自身が考えて戦略を練るよう仕向けた。

 座学を通じて野球の理解を深めさせると、「(小学)3年生の後半くらいからは、私が考える野球と同じような動きで、自分たちの意志で勝とうとすることが分かった」。このような方法で子どもの「自分で考えて行動する」力を養うと、保護者の反応も良くなってチームの評判が上がり、今では約150人の部員を抱える大所帯となった。

町田玉川学園少年野球クラブ・菊池拓平監督が驚いた保護者の一言

多賀少年野球クラブ・辻監督【写真:早浪章宏】

 また、多賀少年野球クラブでは子どもが楽しそうに取り組む練習メニューをメインに据えるケースが多々あるというが、同様に、練習を見守る保護者の表情にも注目している。「親御さんの求めるものをどう育成に落とし込むか」。それを追求するうちに、部員を増やすのと同時並行で3度も日本一に輝くほどの強さを手に入れた。

 チームの特色の1つである、小さな力で大きなパワーを生む腱を使った「バネ投げ」という練習法も、「日本一になることよりも、個人の能力を高めること」に重きを置いた結果、たどり着いた練習法だ。小学生年代の指導者にはやはり、勝利にこだわる指導よりも子どもやその保護者に寄り添う指導が求められる。

 辻監督の話を聞いた「町田玉川学園少年野球クラブ」(東京)の菊池拓平監督は、「保護者の反応」を気にする姿勢に同調した。菊池監督も以前、実力のある選手が揃った代の保護者会で「全国を目指す」と意気込みを語った際、ある保護者に「全国に行こうと思ってここに来ているわけではない」と言われ、ハッとさせられたという。

 少年野球の名監督が育成論を語り合う「日本一の指導者サミット2025」は31日まで開催。「従順なスポーツ」の中身を濃くする方法はいくらでもあるはず。

「日本一の指導者サミット2025」10月31日(金)まで開催中…見逃し配信もあり

 Full-Count、First-Pitchと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、10月27日から5夜連続でオンラインイベント「日本一の指導者サミット2025」を開催中。

 小学生・中学生の各野球カテゴリーで全国優勝経験がある全11チームの監督を招き、日本一に至るまでの指導方針や独自の練習方法について紹介しています。参加費は無料。見逃し配信もあり。登場チームなどの詳細は以下のページまで。

【日本一の指導者サミット2025・詳細】

【参加はTURNING POINTの無料登録から】

https://tp-bb.jp/

トレンドワード