常設チームが組みづらい…女子学童特有の「課題」 全国大会後は“即解散”の現状
今夏2度目の頂点「栃木スーパーガールズ」…希望する6年生は翌年3月まで活動
今夏のNPBガールズトーナメントで2年ぶり2回目の優勝を果たした「栃木スーパーガールズ」(以下、栃木ガールズ)は、2013年に結成された栃木県の選抜チーム。地元の作新学院高の女子硬式野球部で活躍するOGも多数おり、NPB球団傘下でプレーする選手も複数いる。
指揮を執る川村貴幸監督は、中体連の軟式野球部に所属する女子のクラブチーム「オール栃木」も立ち上げ、小・中一貫の指導体制を構築。そうしたユニークな取り組みを紹介した前編(11月13日公開)に続き、後編では栃木ガールズの強さと“課題”に迫りたい。
1回表の守り。同じ小学6年生の男子を相手に、2連続で二盗を阻止した。イニング3つ目の企図は防げなかったが、タイミングはアウトだった。
そうして走者を出しながらも無失点で切り抜けて、迎えた1回裏。走者三塁からのエンドランで先制し、スクイズで加点した。以降は、互いに外野を抜く長打も放ちながら得点を奪い合いつつ、タイプの異なる3投手のリレーで逃げ切った。
筆者の取材した試合で示した栃木ガールズの実力は、やはり本物。相手チームにはたじたじの男子も少なくなかった。「男子に勝ちたい、というより同級生に負けたくないです」と、正捕手の多田出美瑛奈主将は語る。夏以降は、一般のチームや地域の6年生選抜軍と試合を重ねているが、敗北は片手で足りる数だという。
女子チーム同士で戦えないのは、相手がいないから。どの都道府県でも夏の全国大会をもってチーム(大半が選抜)は解散し、選手は各所属チームへ。しかし、栃木ガールズは昨年度から、希望する6年生は翌年3月までともに活動するようになっている。
V戦士たちは、女子だけで活動できるメリットを口々にこう語る。「男子はパワーが大きいイメージでビビっちゃうけど、女子だけなら思い切れます」(坂本心音内野手)、「わかりあえてリラックスできます」(蛇石桜彩投手)、「やりやすいし、信頼も絆もできます」(国府田留那内野手)。
選手たちの夢は女子プロ選手「美容師の資格も持って」
2021年の初優勝の効果で、毎年5月のセレクションは当初の倍以上となる80人規模に。だが、夏以降は対戦相手に困り、指揮官のつてが主な頼りだという。
「日本一でも、女子と聞けば敬遠されるし、夏以降の男子は体の成長もパワーも格段に増して危険ということも……。何より、継続する女子チームが他にないのが残念ですし、全国大会でも単に打って走って投げるだけのチームが多いです」(川村監督)
活動する時間も期限もごく限られる選抜チームが大半となれば、思い出づくりが主眼になるのも自然な流れか。バントや機動力を絡めて1点を奪う戦術や、それに抗う守備を磨いたりするより、個々が思い切りバットを振って定位置で守るだけのほうが、指導者も簡単で、選手にもストレスがない。
一方、超難関の一般の全国大会では、そういう野球はまず見られない。細かなスキルや戦術を磨くための場数を踏めないことは、上を目指す女子選手にとっては不利益になるのかもしれない。
栃木ガールズの6年生たちは、女子ソフトボールには関心ゼロで、野球の女子プロが夢だと口をそろえた。「将来は美容師の資格も持つ、プロ野球選手になりたい」(国府田怜南投手)という、ユニークな現実派も。
中学野球の選択肢のひとつには、川村監督が兼任する「オール栃木」という女子軟式クラブもある。「中学は男子と一緒にやるのは危険。女子の世界でどんどんチャレンジしてほしいなと思っています」(川村監督)。
全国優勝は通過点。少女たちの夢をつなぐ土壌が、関東の北部で、しかと育ってきている。
○大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」でロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中
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