多賀少年野球クラブ・辻正人監督 東京の公式戦未勝利チームを指導
少年野球のカリスマは2時間で、1年間公式戦未勝利のチームをどこまで変えられるのか。滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督が、東京・あきる野市のチームで出張指導した。練習の冒頭に紅白戦を実施してチームに足りない要素を分析。「動かないチームは負け続ける」と先の塁を狙う意識を教え込んだ。
多賀少年野球クラブが活動する滋賀・多賀町から約400キロ。今月18日に辻監督は東京・あきる野市で、2時間限定の監督を務めた。指導するのは「五日市少年野球クラブ」。全国大会常連で日本一も達成している多賀少年野球クラブとは対照的に、この1年は公式戦で1勝もしていない。
ウオーミングアップを済ませた選手たちに向け、まず辻監督が始めたのは紅白戦だった。無死一塁、カウント1ボール1ストライクからスタート。1回表の途中で試合を止めた辻監督は、選手に集合をかけた。
「動かないチームは点数を取れない。動かないチームは負け続けるぞ」
うつむいたりポカンとしたりする選手たちに、辻監督は「野球の仕組み」を説明した。「無死一塁では点数を取れないのが野球」。そして、こう続けた。
「野球はアウトを1つ取られて、走者を1つ進める攻撃では得点できない仕組みになっている。点数を取るには、1死三塁をつくる意識を持たないといけない。そのためには無死二塁をつくる。じっとしていたら、無死二塁はつくれない」
盗塁の意識で練習内容に変化 守備にも打撃にも影響
では、無死一塁の走者を二塁に進めるには、どうすればいいのか。声を揃えて答える。「盗塁」。辻監督は、五日市少年野球クラブに足りないのは盗塁を含めた次の塁を狙う意識と、無死二塁や1死三塁から走者を進める打撃と指摘。紅白戦を中断して、盗塁、牽制球とクイック、多少のボール球でもバットに当てる練習を始めた。
「盗塁の意識がないチームは、走塁練習だけではなく、盗塁を防ごうとするバッテリーの練習が欠けています。走者を進める考えがあるかないかでは、打撃練習の内容も変わってきます」
練習の目的が明確になれば、選手たちの意欲や成長は変わる。走者は盗塁を決めるために投手の動きに集中し、投手は盗塁を防ごうと牽制やクイックを工夫する。辻監督はプレーの精度を上げるポイントを織り交ぜながら、試合につながる練習法を伝えた。
1時間半ほどの練習後、紅白戦を再開。選手の動きや表情は一目で分かるほど変わっていた。一塁走者は無死二塁をつくるために、盗塁やバッテリーミスを狙う。無死二塁で打席に立った選手は、犠打や内野ゴロで走者を進めようと投球に食らいつく。三塁を陥れようとする二塁走者のスタートも見違えるようになっていた。
考える楽しさや上手くなる可能性を知った選手たちは、限られた時間で1回でも多くプレーする機会を得ようと駆け足で動く。自信を掴んだのか、返事の声もどんどん大きくなっていった。
実戦で見つけた課題を改善するのが練習の目的。勝利から逆算した考え方がチームに浸透しているかどうかで、結果に差が生まれる。