外角を引っ張れるのは「最高の武器」 小柄でも怖い打者に…全国3冠チームの“水平打法”

文:尾辻剛 / Go Otsuji

XFacebookLineHatena

西武&中日でプレー…「世田谷西シニア」蓬莱昭彦総監督の打撃理論

 外角球を逆らわずに逆方向へ打つだけでは伸びない。引っ張ることが、強打者への一歩となる。8月の「第18回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」を制するなど、“全国3冠”を達成した中学硬式の強豪「世田谷西リトルシニア」の蓬莱昭彦総監督は「いい打者は外角の変化球を引っ張ってヒットにできます」と説明する。First-Pitchでは小学生・中学生世代で全国制覇を成し遂げた指導者を取材。中学生にも強く引っ張るように指導している理由とは。

 68歳の蓬莱氏は1979年ドラフト4位で西武に入団した。中日との2球団で計309試合に出場。現在は世田谷西の総監督として子どもたちの指導に尽力している。「ボールに対して真っすぐバットを合わせれば、打球は真っすぐ飛んでいきます。ゴルフやテニス、卓球などと同じです。バットの面をボールに対して一直線に入れて打ち返せば、ヒットの確率は上がると思います。あとはミートポイント。バットが入る角度を変えれば、外角球を引っ張ってヒットゾーンに打ち返すことができます」と力を込めた。

 スイングの際、トップの位置からバットの重さを利用してヘッドを自分の背中側に下げる。その勢いを生かしながら体を回転させ、ボールの軌道に合わせてバットを水平に近い感じで入れて振っていく。その際、ヘッドが下がるとポップフライが多くなるため、ヘッドを立てるイメージでスイングする。蓬莱氏の名前を取って“ホーライスイング”と呼ばれる打法である。芯で捉えられる確率が上がり、安打が増える。

 バットを水平に入れようとすると、ヘッドがやや遠回りしてドアスイングのようになるケースもあるが、蓬莱氏は意に介さない。プロ野球で名球会入りした古田敦也氏(元ヤクルト)や和田一浩氏(元中日ほか)、3冠王3度の落合博満氏(元ロッテほか)らの名前を挙げ「ドアスイングに見える選手が結果を残しています」と言う。さらにこうした名選手の特長として「右打者なら外角スライダーを三遊間にヒットできるんです」と説明した。

 蓬莱氏が西武に入団した1980年、通算465本塁打を放った右のスラッガー・土井正博氏がいた。「土井さんは外のスライダーをレフトスタンドにホームラン打っていた。考えられないと思ったんです」。一体どうやって打つのか。打撃コーチに聞いても「土井だからできるんだ。お前にはできない」と一蹴されたという。

外角球は「引っ張るか中堅方向に打たないと安打は増えない」

打撃指導をする蓬莱昭彦総監督(左)【写真:尾辻剛】

 ある時、蓬莱氏と同じ左打者で通算2173安打を放った若松勉氏(元ヤクルト)から「ベース上に来た球は全部引っ張れるし、流せる」と聞き、気づいたのが“ホーライスイング”の原点。投じられたボールに対してバットを水平に合わせ、そのポイントや角度をコントロールすることで、どのコースや球種でも引っ張ったり流したり、自在に対応できることを学んだ。

「外角球を普通に流してうまく打っても、野手がそこに守っていたらアウトになるんです。左打者の時、捕手が外に構えたら遊撃手は三遊間に寄るし、左翼手は左翼線に寄ります。流した打球は弱い。外野の頭を越えれば問題ないですけど外角は引っ張るか、少なくとも中堅方向に打たないとヒットは増えません。外を引っ張ることができるのは、打者にとって最高の武器だと思っています」

 メジャーリーグで本塁打を量産するドジャースの大谷翔平投手にも言及した。「左翼にバンバン打っていたかと思えば、外角の球をガンガン引っ張る時がある。『外の球を中堅から左翼方向に打っている時が調子がいい』と解説されることが多いですが、僕はそうは思わない」と説明。「彼の場合は外角を引っ張れるし、内角を流すこともできる。そこが凄いところ」と続けた。

「左打者ならベース上に来た球は一、二塁間に打たなきゃいけない。それはプロ野球選手なら必須です」。メジャーリーグについても「外を引っかけたり流したり、自由にやっている。メジャーの打者はみんな引っ張れる。型にはまっていません。だから勝負した時に怖い打者に見える。引っ張り切れないのを流しているだけです」と分析する。

 まだ体ができ上がっていない中学生も、打撃の理屈は同じ。「体が小さい子がバンバン引っ張っても絶対に文句は言わない。今は力がないから凡打でもしょうがない。小さい体で流して打てと言ったら、打ち方がおかしくなる。体ができてくれば打てるようになります」。ミートの確実性が上がる“ホーライスイング”はチームに浸透。その結果が強打を前面に押し出した全国3冠だ。蓬莱総監督は10月末開催の「日本一の指導者サミット」に出演予定。体が小さい中学生も、恐れずに外角を引っ張っていいという、その理論を詳しく解説する。

中学硬式で“全国3冠”…世田谷西シニアの指導・練習法を紹介!

 Full-Count、First-Pitchと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、10月27日から5夜連続でオンラインイベント「日本一の指導者サミット2025」を開催します。小学生・中学生の各野球カテゴリーで全国優勝経験がある全11チームの少年野球監督を招き、日本一に至るまでの指導方針や独自の練習方法について紹介していきます。参加費は無料。登場予定チームなどの詳細は以下のページまで。

【日本一の指導者サミット2025・詳細】

【参加はTURNING POINTの無料登録から】

https://id.creative2.co.jp/entry

トレンドワード