学童の仲間6人が高校野球まで全う「奇跡に近い」 進学先は別々も…支えた“土台の教え”

文:楢崎豊 / Yutaka Narasaki

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東京・練馬レッドサンズの卒団生たちが残してくれた“一つの教え”

 わが子が続けている少年野球。この先、中学、高校、その先まで続けてくれるのか。続けたとして、それは何になるのか。グラウンドの隅で見守りながら、そんな問いを抱く親は多いはずだ。答えは子どもの数だけある。東京の小さな学童野球チームを6年前に卒団した子たちの成長が、その問いを考える上で一つのヒントになるかもしれない。

 東京・練馬にある開進第三小学校の学童チーム「練馬レッドサンズ」。この地域は野球が盛んで、1つの小学校で2チームあるという。2020年冬に卒団した同学年13人のうち、6人が高校まで硬式野球を続けた。全国屈指の進学校や私学の名門、地方の県立高校と、進む先はバラバラだった。

 才能ある子は、どこにでもいる。だが、その選手が続くとは限らない。環境に左右され、怪我に阻まれ、野球を離れる子だっている。この代の13人も、7人は高校で硬式野球とは別の道へ進んだ。それでも残った6人が最後の夏まで白球を握り続けたことに、現在も同チームの監督を務めている土屋一典さんは特別な意味を感じている。

「1つの小学校から6人も、というのは珍しい。確率で見れば、奇跡に近いと思うんです」

 2026年夏、高校野球の地方大会。6人が立っていた場所は遠く離れていた。東京の都日比谷、神奈川の慶応高、埼玉の立教新座、福島の学法石川、長野の都市大塩尻、徳島の海部。それでも6人は連絡を取り合い、互いの頑張りに刺激を受けていた。離れても、仲間であり続けた。

「技術は教えていない」…6人を育てた指導の原点

高校3年生になったかつての仲間たち。中には高校のユニホームを着た選手も【写真:チーム提供】

 高校で野球ができるのは、実質2年半。その日々は、思うようにいかない時間の方が多かったのではないだろうか。学法石川の秋山敬祐は、腰椎分離症を抱えながらもグラウンドにしがみついた。立教新座の塚田耕大は、流れる涙を拭うことなく「辞めたい」と口にしたこともあったが、チームを夏の県ベスト4へ導いた。

 都日比谷のエース・松井佑樹は、2年生の時に投球フォームを見失い、もがきながら作り直した。都市大塩尻の中平力輝は、大事な決勝の舞台では腕の怪我を抱え、痛みをこらえて打席に立ち続けた。海部の又野和維は、東京から片道5時間の小さな町へ渡り、地方大会で4番を任された。チームが47年ぶりに制した春の県大会では怪我に苦しんでもいた。慶応高の長谷川海輝は一般入試で入学し、競争を勝ち抜いてメンバー入り。野球と勉強の両立は簡単なことではなかったはずだ。

 どの選手も順風満帆ではなかった。だが、怪我や不調と向き合った日々が、6人を成長させた。うまくいく時ではなく、うまくいかない時にこそ、人は強くなるのではないだろうか。

 思い返せばその土台は、小学生の頃にあった。学童野球のコーチだった秋田潤也さんは懐かしそうに振り返る。「彼らに技術はほとんど教えていません。野球は楽しいぞ、嫌いにならないでほしい。その声かけだけを意識していましたね」。好きでなければ、つらい時に踏みとどまれない。勝たせることより、「好き」を守ることを、秋田コーチは大事にしていた。

 土屋監督も、勝利一辺倒ではなかった。この代は4年生から6年生まで、練馬区内では負け知らず。区の代表として都大会に進んだ。それでも、選手たちの感情が揺れ動くこともある。「涙を流している子がいれば、そばで話を聞く。どうしたらいいと思う? と、本人に問いかけるんです」。勝ち続ける中でも、土屋監督は選手の心の成長を見つめていた。そして、その成長を支えるのが家庭での時間だ。「子どもの成長は、あっという間なんです。だから、親子で楽しめる時間を、親御さんにも一緒に楽しんでほしい」。野球を通じて育まれるものが、その時間には確かにあった。

野球を続けて、何を得るのか…勝ち負けより大切なもの

 監督の言葉を裏づけるように、6人には共通する姿があった。高校野球を終えた後、負けず嫌いだった少年たちが、まず口にしたのは親への感謝だった。月に一度、片道5時間を通ってくれたこと。正月から毎日、電話越しに素振りを見てくれたこと。励ましてくれたこと、黙って食事を作ってくれたこと……。勝ち負けの記憶より先に、支えてくれた人たちの顔が浮かんだ。

 誰もが甲子園やプロに届くわけではない。それでも、高校野球の最後まで続けた6人には、確かに残ったものがある。うまくいかない日々をこらえる力と、支えてくれた人たちへの感謝だ。進学校でも、地方でも、名門でも、それは変わらない。

 夏休み、練馬レッドサンズの本拠地に、その同級生たちが顔をそろえた。高校まで野球を続けた6人も、別の道を選んだ仲間も。やり切った顔、負けの悔しさがまだ抜けない顔。少年の頃の面影が、まだ残っていた。特別な子どもたちではない。どこにでもある学童チームの仲間が、それぞれの場所で戦い、また同じグラウンドに帰ってきた。

 野球を続けて、何を得るのか。この6人がたどってきた道は、一つのことを教えてくれる。単に勝ち負けの記録ではない。乗り越えた経験と、感謝の思い。それは、どんな進路を選んでも、たとえ野球を離れたとしても、その子の中に残っていく。

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