震災、原発事故、存続危機を越え…悲願叶えた「3.11世代」 福島から届ける“感謝の1勝”

中学軟式野球の全国大会に初出場…福島の「相双選抜」が届けた恩返しの1勝
特別な思いを胸に、大舞台に挑んだ中学軟式野球チームがある。8月11日~15日に開催された「第42回全日本少年軟式野球大会ENEOSトーナメント」(横浜スタジアム)に、東北Aブロック代表として出場した福島の「相双選抜」だ。2011年3月11日に発生した東日本大震災、福島第一原発事故の影響による存続の危機を乗り越え、初めての全国大会。初戦を突破し、“恩返しの1勝”を挙げた。
わずか16チームしか出場できない“中学生の甲子園”での、記念すべき勝利だ。相双選抜は12日の1回戦、4回に一挙6得点のビッグイニングを作るなど日高オールスターズ(和歌山)に8-3で勝利。翌日のCLOVERS MIYAZAKI(宮崎)戦で敗れたものの、ベスト8に名を連ねた。「全国1勝の目標は達成できた。まだまだ力不足を感じましたが、意地は見せられたかなと思います」。チームを率いる三瓶仙幸監督(相馬市立向陽中学校教諭)はそう語った。
「相双」とは、太平洋に面した福島・浜通り地方の相馬地域・双葉地域を指す。相双選抜は同県内に10チームほどある地域選抜チームの1つで、同地域の公立中から毎年秋に行われるセレクションを経て編成され、今年で結成22年目となる。
今回の“1勝”に至るまでは苦難の連続だった。「3.11」前は全国を狙える力を誇りながら、春の東北大会を目前に被災。津波、原発事故による住民避難で人口、学校数が大きく減少し、選抜のセレクションを希望する選手も年々減っていった。放射線の影響で屋外活動の制限も続いた。「自治体によっても練習場所に使ってOKという判断が異なったり、なかなか自由に野球ができない時期もありました」と三瓶監督は振り返る。
だからこそ、全国大会に出場し「相双地域が元気であることを示したい」というのが、震災以来の関係者の悲願だったという。保護者会会長の石附誠さんはこう語る。
「ちょうど震災があった前後(2010年、2011年)に生まれた子たちの代で、初めての全国出場が果たせました。私たちにとっては厳しい環境の中で野球を続け、ここまで来られた喜びがあります。今回の出場も大勢の方に寄付などのご協力をいただいて、遠征費や宿泊費を賄うことができました。恩返しも含めて全国で活躍を、というのが私たちの思いでした」
WBC優勝をきっかけに増えた「野球をやりたい」中学生たち

今年のメンバーは3年生15人、2年生4人の計19人。平日や土曜日は所属する中学校での部活動があるため、練習は日曜日(大会前は土日)と限定的だ。しかも、学校のグラウンドや球場を借りるなど、毎回練習場所も変わる。相双地域は南北に縦長で、「(練習場所まで)70キロ以上移動することもありますし、簡単に集まれるものではありません」(三瓶監督)。
そうした環境で全国出場を果たせた要因は何か。「3年生の多くが昨年からの選抜メンバーで、目指す野球が浸透できたこと。22年間、先輩方が積み重ねてきたノウハウもあります。それに、このチームには劣勢でもひっくり返せる気持ちの強さや、ここぞの時の集中力の高さがありました」と監督。コロナ禍以降できていなかった宿泊を伴う遠征ができたことも、一体感を生む要因になったという。
「選手たちは震災当時の大変さを知らない世代ではありますが、チームとしてはいろんな人たちに助けられ、苦しみを乗り越えてここに至ったという思いがあります。感謝を込めて、これまで培ってきた力をいかに発揮するかがテーマでした」
地域の中学校の多くは合同チームを組まざるを得ない状況に変わりはない。それでも、光はある。「(2023年の)WBC優勝をきっかけに、小学校で野球をやっていなかった子が『中学ではやりたい』と部活に入ってくることが増えたんです。そういう子たちも大切にしていきたいですね」と三瓶監督は微笑む。困難の中でも野球を愛し続けた人たちの想いは、新たな世代へ受け継がれていく。
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