
DeNA・深沢鳳介が振り返る中学軟式名門と恩師・西尾弘幸監督との思い出
今年4月30日、中学軟式野球の名将が亡くなった。東京・江戸川区立上一色中の野球部を“Y字型の狭い校庭”で全国大会常連に育て上げ、2022年には“中学生の甲子園”「全日本少年軟式野球大会」で念願の全国優勝を果たした西尾弘幸さんだ。中学時代に西尾さんの薫陶を受け、現在21歳でDeNAの若手成長株右腕として期待されている深沢鳳介投手に、名将の教えの一端を聞いた。
深沢は千葉・専大松戸高3年の時に甲子園春夏連続出場を果たし、特に夏の1回戦では強豪の大分・明豊高を9回11奪三振完封。最速144キロのストレートと変化球をコーナーに決める精密な制球力が注目を浴び、2021年ドラフト5位でDeNAに入団した。
「西尾先生がいなかったら、僕はピッチャーをやっていないと思いますし、甲子園に出ることも、プロに入ることもできなかったかもしれません」。深沢はこう亡き恩師に思いを馳せる。というのも、小1から東京・江戸川区の軟式チームで野球を始めたが、中学入学時は内野手で主に二塁を守っていた。打撃投手役を務める時のコントロールの良さが西尾さんの目に留まり、2年生の秋から投手に転向した。
「内野手として横からボールを投げていたこともあって、最初からサイドスロー気味で投げました。手首が寝てしまう癖があって、西尾先生から『腕の振りは横であっても、手首は立てなさい。真横の回転のボールは垂れてしまうが、しっかり上から叩けば、浮き上がるような、打者の嫌がる球になるから』とアドバイスされました」
上一色中の選手たちが練習する校庭は、センター方向に体育館が張り出したY字型で手狭。しかも、当時は他の部活動と共用で、野球部だけで存分に練習できるのは週に1度だけだった。「野球部だけで使える日には、ノックをすることができましたが、中堅手は右中間へズレなければなりませんでした」と深沢は苦笑まじりに振り返る。
手狭な校庭にネットを張り巡らせてつくった打撃スペース

狭い校庭を最大限に活用するため、西尾さんはネットを張り巡らせ、7か所の打撃スペースをつくった。マシン打撃をするスペース、打撃投手役の選手がスローボールを投げるスペース、そしてエース級の投手が実戦さながらに打ち取るつもりで投げてくる球を打つスペースなど、それぞれ目的が違っていた。
深沢は「僕は中学時代、ピッチャーとして特別な練習をした印象がありません。ただ、毎日実戦形式のスペースでバッターと対戦し、打たれた時にはなぜ打たれたのか、次の日にはどうやったら抑えられるかを考えながら、力をつけていきました」と回顧する。“実戦”に勝る練習はないのかもしれない。
独特の校庭活用法で、上一色中は毎年のように強力打線をつくり上げた。深沢は「実戦形式も有効でしたが、それ以上に、あまり速い球は打たず、60キロとか80キロの遅いボールを繰り返し打っていた印象が強いです。西尾先生が『まず遅い球をしっかり打てるようにならないと、速い球には対応できない』とおっしゃっていました」と語る。
深沢は中3年の夏、エースとして広島県で行われた全国中学校軟式野球大会(全中)に出場し、準決勝に進出したが、宮城・仙台育英秀光中に0-2で惜敗した。現在早大のエースを務め、今秋ドラフト上位指名候補にも挙がる伊藤樹投手との投げ合いに敗れた。「練習試合では勝ったり負けたり、引き分けたりした相手でした。彼は当時から球が速くてスライダーの切れ味も鋭い、凄いピッチャーでしたが、僕は今でもライバルだと思っています。負けないようにしたいです」。“宿敵”が同じプロの世界に入ってくるのを心待ちにしている。
昨年は春季キャンプから順調にアピールし、1軍の開幕ローテ候補に挙がっていたが、2月下旬のオープン戦で右肘を痛め、トミー・ジョン手術を受けることに。それでも、西尾さんからは「若いうちでよかった。鍛えれば筋力は戻るし、自分のピッチングをしていけば大丈夫だ」と励まされたという。
今年6月12日、イースタン・リーグのロッテ戦にリリーフで約1年3か月ぶりの実戦登板を果たし、1回2安打2失点(自責点1)。MAX141キロを計測し、ロッテのドラフト1位ルーキー・西川史礁外野手を外角のスライダーで空振り三振に仕留めるシーンもあった。
「状態はだんだん上がってきていて、今は凄くいい状態です」と口元を綻ばせる。天国の恩師に、1日でも早く1軍デビューの晴れ姿を見せたい。
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