楽しさと強さを両立する“勝利理想主義” 監督が力説する「日本一」より大切なこと

文:木村竜也 / Tatsuya Kimura

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2回戦で前年度王者に敗退も主将は「全力を出せた」

 小学生の日本一を決める「高円宮賜杯第42回全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」は10日、東京・神宮球場などで2回戦が行われた。日本一3度を誇る多賀少年野球クラブ(滋賀)は、前年度優勝の長曽根ストロングス(大阪)に2-4で敗れた。試合後、辻正人監督は「勝っても負けても、楽しむだけです。日本一になっても、ならなくても何も変わらない」と振り返った。そこには子どもの指導に定評がある指揮官が貫いたものがあった。

 前年度優勝チームに最後まで食い下がった。1-4で迎えた最終6回。「このまま終わらせたくない」と1番の石田修くん(6年)は主将としての責任感もバットに込めた。意地の本塁打は空砲に終わったが「負けてしまったのは残念だけど、自分たちの全力を出せた試合でした」と清々しい笑顔を見せた。

 マスクをかぶっては扇の要として、精一杯投手を引っ張った。相手は強打のチームとあり、初回から最終回まで毎回走者を許し、気が休まる回はなかったが、自分もナインも最後まで前を向いて戦った。

 5回には守備妨害でつかみかけた流れを失った場面もあり、雰囲気が暗くなりかけた。「せっかくの全国だ! いい試合しよう!」と辻監督の言葉が三塁ベンチ内に響いた。そんな監督の存在にキャプテンは「試合中も常にプラスな言葉をかけてくれました」と心強さを感じていた。

全国の舞台で貫いた多賀少年野球クラブの精神

6回に意地の一発を放った多賀少年野球クラブの石田修くん(6年)(右)【写真:編集部】

 全国を見渡しても、週末の練習を丸一日実施するチームが多い。それを否定するわけではないが、多賀少年野球クラブの方針は、練習時間は基本半日。辻監督は「(多賀は)決して練習を詰め込んだり、野球だけに時間を奪っているチームではないので、このスタイルでできるだけ多くの成果をあげていきたい」と野球以外の時間を大切にする。

 さらに「正直なところ、もっと練習量(時間)を増やせば、もう少し強くなるかもしれないけど、野球が好きになるかと言われると分かりません。その駆け引きです。もっと野球をしたいと思わせながら、物足りなさを感じさせながら。そのバランスをもっと研究したいですね」と慣習に左右されない指導方針を掲げる。その配分は難しいが、やりがいでもある。

 そんな多賀少年野球クラブの雰囲気の良さは、選手たちからも伝わってくる。敗れはしたが、主将の石田くんは試合後に「練習はいつも楽しくて、毎回練習に行くのが楽しい。(監督は)いつも盛り上げてくれて、マイナスな言葉じゃなくて、プラスの言葉をかけてくれる」と指導者に絶大の信頼を置いていることを明かした。

 負けて悔しくないはずがない。だが日本一になれなくても得られることがある。多賀少年野球クラブが掲げるのは、楽しさと強さの両立“勝利理想主義”。滋賀を勝ち抜き、全国大会2回戦に駒を進めた。監督、コーチ、選手たちは思いを一つにし、全国舞台でも多賀の野球を貫いた。

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