滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督「メンタルは鍛えられない」
滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督は、「なぜ多賀の選手たちは緊張しないのか?」「多賀の選手たちはメンタルが強い」と周囲から声をかけられる。チームはメンタルトレーニングをしているわけではない。大舞台でも平常心でプレーできる理由は「安心」と「諦め」だという。
「野球に緊張する場面はありません。メンタルを鍛える必要はありませんし、鍛えられないと思っています」
辻監督は野球の競技特性や戦術について選手に座学をすることはあっても、メンタルトレーニングの時間は設けていない。試合でパフォーマンスを発揮するために必要なのは心の強化ではなく、「野球を熟知すること」と考えているためだ。
例えば多賀少年野球クラブには、1死三塁をつくれば1点取れるという共通理解がある。安打ではなくとも、アウトと引き換えに内野ゴロやスクイズなどで走者を生還させる戦術と技術があるため、1死三塁、さらには1死三塁をつくりやすい無死二塁のチャンスができた時点で得点を確信する。
1死三塁や、それ以上のチャンスで打席に立つ選手は「絶対に点数を取れる」と自信を持っている。心の中を占めるのは「安心」。緊張や不安はない。
緊張は準備不足、失点する「諦め」で強気なプレー
一方、守備で1死三塁のピンチを背負った場合、「1点取られる」と割り切っている。「諦め」の境地でプレーするため失策を恐れることはなく、失点してもダメージはない。“幸運”にも2死三塁になれば、今度は「絶対に失点しない」と安心へと変わる。辻監督は、こう話す。
「野球は『安心と諦め』のスポーツです。どうせ点数を取られると諦めている時は無茶で強気なプレーもできます。多賀の選手たちは特別にメンタルが強いわけではないんです」
緊張は想定外の事態や準備不足が要因となる。安心と諦めの心境で、平常心を保ってプレーするには野球の知識が不可欠。試合で起こり得る場面を想定して練習で必要な技術を磨いておけば、「メンタルが弱い」と言われることはなくなっていく。
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