学童野球に新たな“球数制限” 「1週間210球」が持つ意味…激変する投手育成の常識

全軟連が通知した「1週間の投球数制限」…全国大会上位を狙うチームは留意が必要
全日本軟式野球連盟(以下、全軟連)が10月28日、「学童部における1週間に係る投球数制限の導入について」なる通知を出した。学童(小学生軟式)野球において、2019年から適用されている「1人1日70球」という、ピッチャーの1日当たりの投球数制限に加え、2026年シーズンからは「1人1週間210球」という新たな制限も適用されることになる(小学4年生以下は1日60球、1週間180球以内)。この新たな投球制限は、実際の大会や試合で、どのような影響が出るのだろうか?
すでに1日70球の球数制限があるため、1週間で210球というのは、週に3日以上試合が組まれていることが前提になるが、学童野球の場合、多くの試合は毎週の土日、2日間で行われるため、さほど新ルールを意識する必要はない。祝日などで休日が3日以上ある週はあるものの、「すべての休日に公式戦が組まれ」、なおかつ「エースが全試合を制限いっぱい投げなければならない」という条件が重なるケースは、かなり限定的に思われる。
そう考えると、現実的にこのルールを気にする必要が出てくるのは、全国大会など、夏休みを使って連日、試合を行う大会ということになろう。全軟連の清野祐さんが説明する。
「このルールはウチが主催している高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント(今年は8月13~18日に新潟県で開催)と、NPBガールズトーナメント(今年は8月15~20日に岡山県で開催)を念頭に決まったものです」
そして、こう続けた。「もともと、1日70球の制限を出したときに、1週間の球数もルール化しようという意見はあったんです。実際、中学生は1日100球、1週間350球というのを(2020年に)同時に出してますしね」。
つまり、今回の新ルール制定は時期こそ遅れたが、既定路線だったということになる。
全国V8の強豪は「大賛成でも大反対でもない」…指導法と育成カギに

ともに6日間にわたって行われるマクドナルド・トーナメントとNPBガールズトーナメントで、確実に210球ルールにかかってきそうなのは、3回戦を勝ち上がったチーム、すなわち、ベスト8以上ということになる。
今年のマクドナルド・トーナメントを振り返ると、ベスト8のうち6チームで、トータル210球を超えている投手がいた。一方のNPBガールズトーナメントは、2回戦スタートが多い組み合わせでもあり、ベスト8のうち、210球を超えた投手がいるのは2チームだった。もちろん、これは球数を検証するための上位8チーム抽出であって、実際には来年以降、上位を目指すためには、初戦から投手1人ずつの球数を計算に入れて戦う必要性が出てくる。エースが3回戦までで制限いっぱい投げてしまっては、準々決勝以降、戦いは一気に厳しさを増すことになるからだ。
もっとも、これは戦い方、戦術というよりは、チームづくりの課題と捉えるべきだろう。全軟連側も、投手の体をいたわることはもちろんだが、一部の選手に多くの負担を求めるのではなく、より多くの投手を育て、チーム全体で戦いに臨むことを推奨している。
今年のマクドナルド・トーナメントで前人未到の8度目の優勝を果たした長曽根ストロングス(大阪)は、来年の同大会出場権を唯一、手にしているチームでもある。熊田耐樹監督は今回の新ルールについて「大賛成ではないけど、大反対でもないかな」と自然体で受け止めている。
「ルールには従うだけですよ。われわれにしたら、しっかりストライクが取れて、試合をつくれるピッチャーを何人、育てることができるか。あとは調子の見極めと起用法。そういうこととちゃうかな。いつもの練習は変わりませんわ」
長曽根は今年の大会で、絶好調だった谷脇蒼投手が全6試合で259球を投げたが、チーム全体の戦力としてみれば、絶対的エースといえる存在はいなかった。1人に頼らない、継投前提の選手起用により、決勝までの6試合を3投手で戦い抜いている。それでいながら――あるいは、だからこそ、なのか――準決勝までの5試合をすべて無四球で終えており、大会トータルでの与四球も、決勝の3つのみだった。見事というほかない。
熊田監督は上記のコメントをさらりと口にしたが、その裏に透けて見える「いつもの練習」の質と量は相当なものに違いない。毎年、飛び抜けた実力の選手がいるわけでなく、好素材を集めることもできない学童野球で何度も日本一を達成するためには、高いレベルで、一部の選手に頼らないチームづくりが必要になる。長曽根は全国大会で結果を出し始めた20年以上前から、その育成法、指導法を確立してきたのだ。
「1日70球」導入から7年…チームづくりの潮流はすでに変わっている

ほかにも、全国大会出場経験があるチームに聞くと、「全国で上位を狙うチームは(長曽根と)同じ考えだと思う。70球ルールができたときから、できるだけ多くのピッチャーを育てている。新ルールでも、そこまでチームづくりや戦い方が変わることはないのでは」といった意味合いの返答が多かった。
1週間210球ルールの導入にあたってチームの意見を聞いて回り、あらためて気づかされたのは、特に全国大会を目指すレベルのチームでは、70球ルールが導入された6年前を契機に、投手の育成と起用に関する考え方は、すでに随分変わってきていた、という事実だ。
たとえば快速球を投げる絶対的エースがいた場合、以前はエース1人に頼るチームがほとんどだった。しかし、現在はエースを軸としながらも、他の投手を育ててバリエーションを持たせ、個々の特徴を生かした起用により、全体で戦うことを考えるチームが確実に増えている。「エース1枚では勝ち続けることができない」というのは、現在のチームづくりでは、ほぼ常識だ。
連盟側は投球数制限を設けたときの懸念点として「故意に『待て』を選択する場面が増えるんじゃないか」などの点を挙げたが、多くのチームでは、それも戦術と織り込んだうえで、選手の育成にあたっている。
70球ルールが導入された2019年、その前年に全国制覇した多賀少年野球クラブ(滋賀)の辻正人監督に聞いた話を思い出す。投球制限により、才能ある投手がかえって埋もれてしまうことはないのだろうかと問うと、同クラブ出身の楽天・則本昂大投手を例に挙げ「彼も1試合に70球以上投げたことはほとんどありませんでした。力のある子なら、どんな状況でも出てきますよ」と返ってきたのだった。
今回の新ルールも、問われるのはチームづくりや選手の育成、試合での起用法など、指導者の考え方や資質ということになるのだろう。その結果を実感できるのは何年か後になるのかもしれないが、まずは来季の地方大会から全国大会まで、新ルールを頭に入れて、試合を見て回ってみたい。
〇鈴木秀樹(すずき・ひでき)1968年生まれ、愛知県出身。南山大卒業後、中日新聞社事業局で主にスポーツイベントの開催に携わる。退社後、フリーライターとして「東京中日スポーツ」「東京新聞」で学童野球を中心に扱う「みんなのスポーツ」コーナーの記者兼デスクとして取材・執筆や編集業務全般を20年以上担当。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて取材、執筆中。
https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know
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