指導者世代に根強い“引っかけは悪” 元プロ反論…併殺になっても「絶対怒らない」ワケ

文:尾辻剛 / Go Otsuji

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西武&中日でプレー→現在は「世田谷西シニア」総監督…蓬莱昭彦氏の打撃理論

 中学生の打球はスライスする傾向が強い――。普通に打撃を行った場合、右打者は右方向、左打者は左方向に打球が切れていくという。8月の「第18回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」を制するなど、“全国3冠”を達成した中学硬式の強豪「世田谷西リトルシニア」の蓬莱昭彦総監督は「最初はスライス軌道で打っている子どもがほとんどです」と説明。First-Pitchでは小学生・中学生世代で全国制覇を成し遂げた指導者を取材。蓬莱総監督が背景を解説した。

 68歳の蓬莱氏は西武、中日でプレーし、通算309試合に出場。現在は世田谷西の総監督を務めている。「今は多少変わってきていますけど、日本の野球の歴史を振り返ると、引っかけたら指導者に怒られることが多かったんです」と指摘する。右打者が体勢を崩されミートポイントが体の前方になると、三ゴロや遊ゴロ、左打者ならニゴロや一ゴロとなることが多い。

「プロでも同じです。僕らの年代のプロ野球選手は絶対に経験している。2軍から1軍に上がって打席で引っかけたら、ものすごく怒られていました」。そうなると、心理的に自然と投球に対して当てにいくことが増える。「引っかけるのが嫌で当てにいくと、こすってしまうんです」。今の子どもたちの親世代、つまり指導者世代の多くが経験したことであり、“引っかけは悪”の考えが浸透している。

 まずは当てにいこうという意識が強いため強く振り切れず、スライス打球になることが多い。「イメージとしてはゴルフの初心者の球筋と同じでフック系よりスライス系が多くなるんです。引っかけてはいけない。でも、強い打球を打ちたい。正反対の2つの気持ちがあって葛藤が生まれます。しっかり振っていくと引っかけることがありますからね」。

 蓬莱氏は「子どもたちには、そういうプレッシャーをかけたくないんですよ」と力を込める。「真剣に打ってスライス打球を打つことは上達の妨げになる。だから、右打者がボテボテの三ゴロとか引っかけても何も言いません」。世田谷西では引っかける打球に対して注意しないという。

右の強打者に併殺打が多いワケ「打球が速いから…」

打撃練習では「打球の質しか見ていない」と蓬莱総監督【写真:尾辻剛】

 プロ野球界を見ても、名選手ほど引っかける打球が少なくないという。「歴史をたどると、そういう打球を打っている多くの人がプロ野球で名を残しています。いい右打者だとゲッツー(併殺打)も多くなります。野村(克也)さんや落合(博満)さんらも打球が速いからゲッツーになるんです。こすったら打球が弱いからゲッツーになりにくい」。

 打席から一塁までの距離が近い左打者は併殺を免れることが多いが、走者が一塁にいる場面で右打者が強い内野ゴロを打つと併殺の可能性が高くなる。実際、プロ野球の通算併殺打は1965年の3冠王・野村克也氏が最多の378。2位が衣笠祥雄氏の267、3冠王3度(1982、1985、1986年)の落合博満氏が7位タイの236と、通算500本塁打以上を記録した右の強打者が上位に並ぶ。

「一概に全ての選手が当てはまるとは言いませんが、打撃が悪い選手は引っかけることができないんです」。中途半端に当てにいくくらいなら引っかけていい。まずはしっかり振ること。強い打球を飛ばすことを求める。

 世田谷西の打撃練習中、蓬莱氏が見ているのは打球の質。「どんな打球が出ているのかをずっと見ています。どのコースを打ったらどんな打球が出ているのか。打球の質しか見ていないです。練習は打たせる球を投げているのだから、しっかりつかまえられているのかというチェックです」。

 成長期の中学生。体が小さな選手も多い。「小さいからってコツンと当てにいくスイングではダメです。しっかり振って、バンバン引っ張っていい。絶対に文句は言わないです。今は引っかけてボテボテのゴロでも、体が大きくなれば強い打球を飛ばせるようになります」。強く振って捉えられれば、スライスしていた打球が一直線に飛ぶようになる。それが打撃向上の一歩。蓬莱総監督は10月末開催の「日本一の指導者サミット」で、少年野球に役立つ指導法を語ってくれる。

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