お茶当番忘れて叱責「母親は何してる」 米との落差に衝撃…少年野球で根深い“昭和の謎ルール”

編集部宛に悲痛なメール…米国帰りの母が抱いた少年野球界への“違和感”
9月某日、First-Pitch編集部に1通のメールが届いた。「はじめまして。長年米国で生活し、今年日本へ帰国したA(仮名)と申します。日本の硬式野球クラブチームで、大きなカルチャーショックを受けました」。記されていたのは、理不尽がはびこるチーム運営、指導方針、保護者の負担……。日本の少年野球を取り巻く環境に衝撃を受けたという内容だった。編集部がAさんへの取材で聞いた、大きすぎる“違和感”とは。
中部地方在住のAさんは、中学を卒業後に米国へ移住。長い期間を過ごし、今年家族とともに帰国した1児の母だ。息子は野球が大好きな小学生で、米国ではリトルリーグでプレー。夫も日本の強豪大学でプレーした経験を持つ。息子に、大好きな野球を続けさせたいと思い、帰国後すぐに複数の硬式クラブチームの練習見学に向かった。
ところが、そこで直面したのは日本の少年野球界の旧態依然とした実情だった。
「いずれのチームの指導者も“昭和風”。子どもを『お前』呼ばわりしたり、怒鳴りつけるような言葉遣いだったり……。喫煙者も多くて、子どもたちの前で平気でタバコを吸っていました。練習時間もとにかく長くて、土日の朝早くから夕方までやっている。硬式での長時間練習は肩肘への負担もありますし、夏場は猛暑も大きな負担になります。子どもの集中力にも限界がありますし、とても効率的には思えませんでした」
米国の少年野球指導は「グッジョブ!」などとポジティブな声かけをするのが基本。子どもへの怒声罵声は立派な“犯罪行為”で、実際に過去に罪を犯していないかなどのバックグラウンドチェックも厳しいという。
さらに大きな違和感を覚えたのは、チーム内にはびこる昭和のルール。例えば、母親が務める「お茶当番」だ。
「朝から夕方までグラウンドに待機して、休憩のたびに監督・コーチにお茶を入れて持っていく。お昼にはカップ麺にお湯を入れて持っていく。それって指導者が自分でできますよね? お茶を出さなかったら、後日『母親たちは何をしているんだ』とお叱りの電話が来たという話も聞きました。女性がお茶を出すものという決めつけもおかしいですし、今の時代、立派なハラスメントじゃないですか」
他にも、「子どものサングラスはNG、親も試合中はかけてはいけない」という“謎ルール”も。強烈な日差しが照りつける今の時代、親も子も“目を守る”ことがなぜいけないのか。「理解に苦しみます」とAさんは困惑する。
「うちの子は信じられないくらい野球が好き」…だからこそ新しい価値観を

近年は、お茶当番など親の負担を減らすチームが増えてきてはいるものの、まだまだ因習は根深い。そして「一番怖いのは、怒声罵声や謎のルールがおかしいという自覚がない、むしろ美徳とも感じている保護者がいることです」とAさんは訴える。
「大谷(翔平)選手が大活躍しているので、日本では野球をする子が増えているだろうと思って帰国したら、どのチームもギリギリの人数でした。暴言やお茶当番が当たり前という保護者がいる限り、子どもを守る意識のないチームがなくなることはない。それでは野球人口が減っていくのは、当然ですよね」
Aさんは長く教育関係の研究や仕事に携わってきた。それだけに、古い体質が残る日本の野球界、広く言えば日本のスポーツ界に危機感を抱く。今夏の甲子園でも選手の暴力行為が大きなニュースになったが、その子たちも、指導の名のもとで暴言・暴力が許容される世界で育てられてしまった、ある意味“被害者”ではないか。大人が変わらない限り、負の連鎖が断ち切られることはない。
現状を好転させるには何が必要か。時代に合ったコーチングができるよう、指導者が“学びのアップデート”をしていくのはもちろん、「保護者の意識改革も大事だと思います」とAさんは語る。
「自分たちのチームのカルチャーが、世間的に正しいのか。美徳だと思っていることが、本当に美徳なのか。いろんな情報を入手して、フラットにして考えてみる。そうしなければ、指導者が変わることもありません。子どもたちが身体的にも精神的にもヘルシーに野球ができるよう、親も指導者も、子どもと同じ目線に立ってみる。野球を通して成長させていくビジョンがないと、どんどん人は野球から離れていってしまいます」
Aさん一家は結局、自分たちの価値観と合う軟式チームを探し当て、入ることに決めた。硬式球の感覚も忘れぬよう、父親との練習で毎日触れるようにしているという。
海外で過ごし、日本の野球の素晴らしさも肌身で感じてきた。用具を大切に扱うことや、規律正しさ、緻密な守備は米国にはないものだ。そして何より、「うちの子は信じられないくらい野球が好きなんです」。甲子園出場が夢で、憧れの強豪校のユニホームを見かけると、話しかけに行きそうな勢いになると笑う。
だからこそ、息子が歩んでいく日本球界が少しでも良い方向に変わっていってほしい。「新しい価値観が広がって、野球人口が増えて、1人でも多くの子が世界に羽ばたいて、日本野球の素晴らしさを広めてもらえたら、それが一番です」。心から、そう願っている。
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