スカウト殺到、見学多数 豊富な練習量も「心から楽しい」…中学女子チームの独自規律

文:吉田三鈴 / Misuzu Yoshida

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全国大会出場20回…女子軟式チーム「三鷹クラブW」の指導哲学

 東京都三鷹市を拠点とする中学軟式女子野球の強豪「三鷹クラブW(ダブリュー)」。尾美一郎監督が15年にわたって築き上げてきた独自の指導哲学は、単なる野球技術の向上を超えた「人間力の育成」にある。妥協のない指導と愛情が共存する現場で、尾美監督が大切にする価値観と、次世代への思いについて話を聞いた。

 2009年創部の三鷹クラブWは、現在29人(1、2年生)が在籍し、全国大会出場20回、関東女子軟式野球連盟春季大会6連覇中と、その実力は折り紙付きだ。取材日も、ある大学のスカウトの姿が見られるなど、多くの卒業生を野球界やソフトボール界へ輩出する名門チームの1つである。しかし2011年からチームに携わる尾美監督は、野球技術よりも、人間力の育成に重点を置いた指導を一貫して実践していると話す。

「ここでの約3年間で、小さくても(たった1度の1プレーでも)いいので、花を咲かせてくれればと。土台がしっかりできていれば、次のステージで新しい肥料や土が入ってもっと大きく育ってくれます。花が咲く場所は、ここだけではなく、タイミングはそれぞれ。ただ腐らせない(野球を嫌いにさせない)ことが、チームのテーマです」

 三鷹クラブWの強さは、近隣の男子チームからも恐れられているという逸話もあるほどだが、その強さの秘密は、野球のために費やす時間量と、独自の規律にある。

「道具は一切、私たち指導者が手出しをしません。道具車への積み下ろしはもちろん、グラウンドの準備や整備などもすべて子どもたちが行います。選手には、道具係、グラウンド係、お世話係といった係があり、たとえば、体験に来た小学生にはその日のお世話係が必ずつき、一日担当します。グラウンド作りはすべてグラウンド係が指示し、道具係はボールを全部数え、1個でもなくしたら全員で探すルールです」

チームに迷惑はかけない。人間力のための「自立」と「自律」

選手たちの野球道具や個人の持ち物が整然と並べられている【写真:吉田三鈴】

 さらに監督は、「個人のバッグのファスナーが少しでも開いていたら、叱り飛ばしますよ」とお茶目に笑う。身の回りの乱れは、心の隙や準備の甘さを反映し、プレーにも直結する、そして自分の持ち物は自分で守るという意識付けによって、管理不足によるトラブル防止になる。そうした意図から、整理整頓を徹底させている。その言葉どおり、グラウンドの周りに置かれた野球道具や個人の持ち物は、どれも美しく並べられていた。

 他にも、活動を休む際は必ず子ども自身が監督に直接電話連絡を入れる、忘れ物があれば取りに帰り、次の試合に出場できないことも明文化されており、これらはいずれも「自分のことは自分でする」自立心の育成と、当事者意識の大切さを教えるためだ。

「世の中、自分さえよければいいっていう発想が蔓延していますよね。僕はそこがなんだか腹立たしくて、選手にも怒るところなんですよ。ボールが落ちていても拾い上げないなど、どこか人任せ。それはプレーにも出ますよね」

 団体競技である以上、自己管理を完璧にすることが、チームに迷惑をかけないための最低限のルール(当たり前のこと)というわけだ。すべては野球のために、自分自身を律する習慣を身に付けることが、三鷹クラブWの選手である条件なのだろう。

“競争”を促し逃げない心、タフな心を育む

三鷹クラブWの練習の様子【写真:吉田三鈴】

 三鷹クラブWでは、基本的にすべてが“競争”だ。

「エースは基本的に作りません。必ず2つのポジションを守らせ、新人選手が入ればメンバーは入れ替えますし、今も1年生4人がベンチ入りしています。3年生でもメンバーから外しますし、あぐらはかかせませんよ」

 練習中は、選手同士で競う場面がいくつも見られた。2チームに分かれて別メニューを行う場合でも必ずジャンケンで選択したり、ランニングも個々にライバルを見つけては、あちこちで勝負を挑んだりする姿があった。

「僕ね、結構意地悪なんですよ、こう見えて」と、尾美監督は自身を評しながら、具体例の1つとして、「試合中にミスをした際にすぐに交代させる選手もいれば、あえてそのままの選手もいる。もちろんそこには意図がある」と教えてくれた。

 その子の性格や状況を見極めた上で、一律の評価ではなく「1つのミスで居場所がなくなるかもしれない」という緊張感を作り出しているのだろう。そこには、厳しい勝負の世界で、困難を乗り越えるためのタフな心を育むよう求められていることは、明白だ。

 そんな尾美監督は、練習中も1か所に留まっていない。ノックの後は、選手一人ひとりに声をかけ、そのプレーを評し、自らお手本を見せながら内・外野へと移動する。合間にコーチと相談し、保護者やスカウト、遊びに来たOGと談笑しながら、グラウンドの端から端まで、誰よりも動き、声を出していた。

感情の制御とコミュニケーションができる子に

グラウンド内を動き回り頻繁に会話を交わす尾美監督【写真:吉田三鈴】

 さらに驚きなのが、時に監督の強い口調による指導があっても、選手が誰一人負けてはいないことだ。笑いながら軽口で返す場面も多く、そのやりとりはむしろ微笑ましいほどだった。これも信頼関係があるから成せるコミュニケーションだ。

 この大人との対話を通じた自己表現も、三鷹クラブWが伝統的に大切にしていることだという。入部当初は引っ込み思案だった子も、監督をはじめ指導者たちとの会話を重ねて、少しずつ心の壁をほぐしていく。「三鷹の選手は大人としっかり話ができる」と評されることも多いそうで、指導者たちが一人ひとりと向き合い続けてきた証といえるだろう。

 ある選手の保護者に話を聞くと、親が送迎できない日、選手は往復3時間かけて自転車で通う日もあるそうだが、それでも本人は、「自分を高めてくれる仲間と野球がしたい」と、心から野球を楽しめる環境があるチームに感謝していると話す。

 現代の風潮とは、逆行するポイントも多いと思われがちな三鷹クラブWだが、入部する選手のポテンシャルはこの2、3年でさらに上がっているという。女子野球チームの数が増え、選択肢がたくさんある中でも「あえて」の環境に飛び込みたいと望む選手が各地から集まってきており、年間見学者数は60人を超す。つまり、野球に真剣な選手にとっての、“楽しい野球”が叶う場所だということがわかる。

「僕たちは、次に送り出すステージ作りしかできません。今レギュラーではなくても、次のステージで活躍していく子は山ほどいます。チームは、優勝しようとか、常勝することが目標ではない。ただこの子たちが大人になっても野球を大好きで続けられること、子どもができて母としてキャッチボールできる幸せを感じてもらいたい。そしていつかお子さんを連れてグラウンドに入ってくる姿を見られたら、指導者としては、最高ですよね」

【実際の動画】“基礎の徹底”と豊富な実戦が強さの秘訣 「心から楽しい」三鷹クラブWの練習の様子

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