四死球連発の低学年も「まともな野球」に 高学年でも応用…愛知強豪の“投手不在ゲーム”

文:大久保克哉 / Katsuya Okubo

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愛知・北名古屋ドリームスが導入する「PMBB」…マシン活用の画期的取り組み

 全国大会常連の実力を誇る愛知県の学童野球チーム「北名古屋ドリームス」は、“投手不在”で低学年でも実戦形式を楽しめる「PMBB」という新たな取り組みを導入し、好評を得ている。低学年でもハイテンポで“野球”が楽しめるこの試みとはどのようなものか。選手・保護者の満足度や安定したチーム運営にも繋がっているようだ。

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 平日の活動はなく、夏場でも夕方5時に必ず終了。5月の大型連休中などは、各家庭で過ごせる日もある。それでいて、未就学児から6年生まで、どの学年でもプレーと上達の機会が存分にある。

 そういう組織と環境を整えて、学年10人以上の安定した編成と運営を実現し、全国大会の常連にもなっている学童野球チームが愛知県にある。“小学生の甲子園”こと「全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」には7回出場し、2021年に準優勝している「北名古屋ドリームス」(以下、北名古屋)だ。

 1年ほど前からは、2年生と3年生の世代における「PMBB」という新たな試みが、内外で大好評。組織の長でもある岡秀信監督は「結局は団員(選手)満足度をいかに上げるか」と極意を語るが、具体的にどういうことなのか。活動拠点のひとつ、北名古屋市立栗島小学校のグラウンドを訪ねた。

 PMBBとは、「ピッチングマシン・ベースボール」という造語の頭文字をとった略語。簡潔にいえば、投手不在でマシンを代用する試合のことだ。

 北名古屋では5・6年生のトップチームでも、兼ねてから冬場の紅白戦でこれを実施している。「投手の負担を減らしたいのと、生きた打球が飛ぶので守備練習にもなるし、実戦的な走塁練習にもなる」と岡監督。それをそのまま、2・3年生の対外試合に採用した背景には、昨今の競技人口・チーム減少のあおりがあるという。

「未就学から2年生までの『キッズ』は、ティーボールで定期的に対外試合もして、楽しみながら基礎を習得する。3・4年生は『ジュニア』として大会にも参加しますけど、3年生があふれがちなんです。4年生の大会に出るには時期尚早だけど、置いてある球を打つティーボールではもの足りないし、でも練習試合には相手がなかなか……。3年生・2年生だけで対外試合ができるようなチームが、めっきり減ってしまいましたよね」

4年生以下の試合でよくある“惨状”も…マシン相手ならば盛り上がる

交流大会ではダブルベースを一塁に採用。リードは1m以内【写真:フィールドフォース提供】

 筆者は近年も、4年生以下の市区町村大会を複数取材しているが、大会序盤は“惨状”も見受けられる。四死球と捕逸と盗塁の連続で、まともな野球やスコアにならない試合も多々ある。バッテリーですら、基本中の基本である「ボールを捕る・投げる」に難儀して、1回の表裏が終わらないのだ(近年は5得点で攻守交代も増えているが)。そして挙げ句には、外野で大の字に寝転がる選手も。笑い話では済まされない野球界の現実のひとつが、そこにある。

 そういう“惨状”にあるようなチームでも、最低7人いれば、そこそこの野球になって盛り上がれるのがPMBBの最大の魅力だ。バッテリーを除いても試合が可能で、マシンが吐き出すボールは基本、一定なので打者は打ちやすく、捕手は捕りやすい。またボール球がないので、攻守ともに待ち時間が短く、ハイテンポで試合が進む。

 取材日には、近隣の岐阜県と三重県からチームを招いての計4チームによる交流大会が、半日で行われていた。試合は8人同士(投手以外)の5回制で、3イニングで全ポジションをチェンジ。バッテリー間は10メートルで、マシンの球速は65キロ程度、外野は両翼45メートル地点から白線がひかれ、そこをダイレクトで越えた打球は本塁打になる。盗塁はなしで、走者のリードは1メートル以内。安全性確保のために、ソフトボール用のダブルベースを一塁に採用していた。

「試合形式で野球を覚えることも目的のひとつなんですけど、試合のルールなんて戦うチーム同士で自由に決めていいし、ガチガチの制約があるわけでもない。とにかく、ものすごくスピーディーに試合が展開するし、運動会みたいに保護者もめちゃめちゃ盛り上がる。ホントにみんな、楽しそうですよね」

 球音と歓声と笑顔が絶えないフィールドを眺めながら、語る岡監督もまた自然と顔がほころんでいた。

「ヒットやホームランを打ちたい」…低学年の欲求を醸成

北名古屋ドリームスの岡秀信監督(左)と篠田進太郎コーチ【写真:フィールドフォース提供】

 どの試合も1時間前後で終了。マシンのボールに慣れてきた打線の2巡目からは明らかにヒットも増え、守備のファインプレーや本塁打も随所に。そして最終スコアは、4-3や3-2など、多くが接戦だった。優勝したのは、場数も踏んでいる北名古屋の3年生チーム。率いる篠田進太郎コーチはPMBBの利点をあらためてこう語る。

「フォアボールの連発で、守備位置でずっと立っているだけ、みたいなことがないし、打球も内外野に飛ぶので集中が途切れませんよね。北名古屋のスローガンは『打って打って打ちまくれ!』なんですけど、ヒットやホームランを打ちたいという、シンプルな欲求を3年生までに醸成する環境ができていると思います」

 観戦していた3年生の保護者、岩崎祥子さんは、昨年までのティーボールでは2年生たちに交じってプレー。息子はPMBBを通じて、変化の兆しもあるという。

「練習ばかりではなく、こうして対外試合もできることで目標も出てくるみたいです。ただ楽しいだけではなく、思い通りにいかないことも経験するせいか、ウチの子は家に帰ってきて自分でバットを振ったりするようになっています」

 決勝で二塁打3本など、勝利に貢献した松山翔陽捕手(3年)は「ティーボールより野球に近いので、めちゃくちゃ楽しいです。家にもネットを張ってボールを打っています」と、夢中な様子。1回戦でサヨナラ本塁打を放った、岐阜「13クラブ」の吉田丞中堅手(3年)は「マシンの球はまぁまぁ速いし、コントロールがいいので打ちやすい」と興奮気味に話した。また、三重の「スモールスポーツ少年団」を率いた堤秀紀代表は、敗北した選手たちにこう説いていた。

「試合には勝ち負けがあるから、今日は相手のほうが力があったということやな。でも、しっかり練習していけばまだまだ強くなれる。楽しくやるのも大事やけど、自分で目標をもったり、うまくなりたいと思わないと、うまくならない。キミらはもう3年生、2年生やから、相手と同じようにできるはずや」

「要は団員の満足度をいかに上げるか」と指揮官

マシンに不慣れな子も多いことから試合前には練習も実施【写真:フィールドフォース提供】

 さて、投手の代わりに使用しているマシンだが、北名古屋では5台所有。価格はバッテリー別で、1台10数万円前後(為替で変動)だという。低学年は不慣れな選手も多いことから、PMBBの各試合前にはマシンを用いての打撃練習が30分間とられていた。

「チームを長い目で安定させるなら、それなりの投資は最低限必要だと思います。ウチは団員募集に成功しているほうだと思うんですけど、結局は団員がどれだけ喜ぶか。その満足度を高めているから保護者も協力してくれるし、それが口コミにもなって広まるんです」(岡監督)

 SNSを介して「野球しよう!」「体験会やります」「優勝しました」といった文言での選手集めが盛んな学童球界の昨今だが、もっと根本的なヒントが北名古屋の取り組みには多々あるように思えてならない。就学前のキッズ野球から育った6年生たちが、ここ3年連続で全国出場を決めている。PMBBも体験した選手たちが、初めて6年生になるのは再来年の2027年度。北名古屋の発展と繁栄はまだまだ続きそうだ。

○大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」でロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。
https://www.fieldforce-ec.jp/pages/know

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