手術前の姿を追い求めず、術後の体でベストな方法を模索

「手術した右膝が開きやすくなり、左打者にとって大切な右側の壁を作るのが難しくなりました。根気強くトレーニングをしましたが、以前と同じ動きはできませんでした。手術後の膝の可動域の中で最も力が入るポイントを探しました」

 谷口さんは手術前の体を追い求めなかった。術後の膝を受け入れて、ベストな方法を探す。踏み出す右足に力が入るよう、母指球(親指の付け根)から地面につくことを心がけたり、重心の位置や体重移動を試行錯誤したりした。1軍に復帰してから3年間で出場したのは計45試合。2021年限りで引退を決めた。故障は現役生活を短くしたかもしれない。だが、谷口さんは悲観していない。

「アカデミーに来ている子どもたちと話をすると、所属している少年野球チームで怪我のリスクがある指導を受けているケースがあります。時には頑張らないといけない場面や時期はありますが、無理と無茶は違います。無茶は怪我につながる可能性があります。自分自身が怪我をして学んだ『無理はするけど無茶はしない』という考え方を子どもたちはもちろん、指導者や保護者にも伝える機会をつくっていけたらと思っています」

 谷口さんは怪我をしてから、体について学び、考えながら練習や試合に臨むようになった。周囲のサポートのありがたさや人付き合いの大切さも実感したという。「経験を還元していきたいと思います」。プロ野球選手は引退してからの人生の方が、ずっと長い。

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