
4年前は部員2人…廃部危機の「東須磨少年野球部」を変えた中谷龍矢監督
チーム存続の難局を救ったのは、“当たり前”の排除だった。創部から70年以上の歴史を誇る兵庫の学童チーム「東須磨少年野球部」は2022年、廃部危機に直面した。部員数は僅か2人。当時、監督に就任したばかりの中谷龍矢さんは「残された子どもたちだけは何とかしたい」との思いで指導を続け、周囲の助けもあり、老舗チームを部員46人にまで復活させた。
中谷監督は2018年、息子が入部した「東須磨少年野球部」の“パパコーチ”になった。その後も指導者としてチームに残り、2022年に監督に就任したが、6年生が卒部すると残った部員は2人だけ。大会出場はおろか、練習すらままならない状況だった。
キャッチボールやノックはできても、試合に必要な連係プレーや実戦練習などは不可能。野球の楽しさを伝えられないこともあり、「存続するのは厳しい」と諦めそうになった。そう覚悟を決めた時、同じ地区のライバルチーム「真陽少年野球部」が声を掛けてくれた。
「もしよかったら、一緒に大会に出ませんか? 東須磨さんは存続してもらわないといけない」
ライバルであるはずのチームからの温かい誘い。藁にもすがる思いで合同チームを結成し、子どもたちの「野球ができる場所」を何とか守り抜いた。この経験が監督としての“原点”となった。チームプレーができるありがたさを噛みしめ、指揮官は再建に本腰を入れた。
まず着手したのが保護者の負担軽減。かつては当たり前だった「お茶当番」「昼当番」「父母会計」などの係を撤廃した。「当初はそれ(係があること)が普通の感覚だった」と振り返る。だが、妻や友人からの「負担が大変すぎる」「親がそんなことまでするの?」といった率直な意見に耳を傾け、考えを改めた。
「お茶当番」は本当に必要か…保護者の負担を減らし、ゼロからのチーム改革

「子どもたちが野球をやりたくても、親の負担が野球を始めるハードルになっているかもしれない。それだったらなくせばいい。やれることは自分たちですればいいじゃないかと。今考えると当たり前なのですが、それが習慣になっていると気づかない。周りの大人にも話をして納得してもらいました」
ほぼゼロからの再スタートだったからこそ、“改革”を断行できた。しがらみを断ち切り、“不要な慣習”を撤廃。多くのスポーツの中から野球を選択できる環境を整えたことで徐々に部員は増えた。しかし、順風満帆とはいかなかった。体験会を開いても人が集まらない日々。そんな中、転機となったのは「移籍組」の受け入れだった。
他チームで起きていた大人同士の“揉めごと”。「どこかに移籍したい、なんとかしたい」。子どもたちが発したSOSを受け止めた。「少年野球の移籍は、九分九厘が大人の事情です」。だからこそ、東播磨少年野球部に来た子どもたちには「楽しかった」と思ってもらいたい。当初は大敗続きで試合にならなかったが、「子どもたちが笑顔で野球を続けている」。その事実だけで十分だった。
野球を楽しみ、好きになることが一番の指導方針。中谷監督は「暴言と叱ることは別」と強調する。人格を否定するような罵声や暴言は断じて許されないが、教育的な観点から「叱る」ことは必要と考えている。チームには「お弁当と水筒は必ずお父さん、お母さんに手渡しで返すこと」という約束事がある。
全ては感謝の気持ちを育むため。「なぜ野球ができているのか。誰かの助けがあるからこそ、グラウンドに立てている」と説く。「グラウンドで一生懸命やっていない子はいない」。だからこそ、プレーのミスでは怒らない。だが、人として大切な部分が疎かになった時は本気で叱る。それが、部員2人からチームを立て直した指揮官の譲れない信念だ。
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