NPBジュニアに“大量輩出” 特化型は「使いにくい」…北の強豪がマルチ能力を伸ばすワケ

文:石川加奈子 / Kanako Ishikawa

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札幌・東16丁目フリッパーズは14年間で17人のNPBジュニアを輩出

 わずか1球団16人という逸材小学生の“狭き門”に、多くの選手を送り込めるのには理由がある。北海道・札幌市東区の少年野球チーム「東16丁目フリッパーズ」は、2012年に3人が「北海道日本ハムファイターズジュニア」に選ばれて以降、14年間で計17人をNPBジュニアに輩出。今年もファイターズジュニアに2人、さらに静岡に転校した選手が「くふうハヤテベンチャーズ静岡ジュニア」に合格している。いずれも通常のセレクションを突破しての実績であり、学童野球チームとして全国的にも屈指の数字を誇る。

 笹谷武志監督が重視するのは「総合力」だ。特定の能力に突出する選手ではなく、走攻守すべてをバランスよく備えた選手を理想とする。「何かに特化したら、使いにくい選手になってしまいます。オール3、オール4、オール5みたいなところを目指して育成しています」と話す。

 実際に、東16丁目フリッパーズの選手は本塁打を量産するわけでも、球速120キロを投げるわけでもない。それでも小技や走塁を含めて総合的な力に優れ、野球を理解している。「皆さんから“フリッパーズの子は変なことをしないよね”とよく言われます」。外部からのうれしい評価は、そのまま指導方針の成果を映し出している。

 中学以降の野球人生を見据え、選手には内野も外野も練習させる。投手と捕手は早めに適性を判断するが、それ以外は5年生のシーズンが終わると一度ポジションを白紙に戻す。「うちで内野をやっていても、中学では外野をやるかもしれません。内野手と外野手の両方の要素を鍛えたいと考えています」。秋から冬にかけては全員が同じメニューをこなし、その中で適性を見極めていく。

 チームづくりの根底には「めぐり逢い」という考え方がある。その年に集まったメンバーの顔ぶれを見て、どのような野球をするかを決める。ある代はスピードを武器にし、またある代は力強い打撃を前面に押し出す。笹谷監督自身には「守りのチームでなければならない」といった固定観念はない。型に押し込めるのではなく、その時々の顔ぶれから最善を導き出す。だからこそ、毎年違った魅力を放つ。「この子たちだったら、この作戦はいらないなとか取捨選択して、その代の武器をつくっていきます。自分の野球スタイルというものはありません」と語る。

 どんな特徴を前面に出すにしても、最低限の基礎力は欠かせない。100種類以上ある独自のキャッチボールメニューで徹底的に土台を鍛える。打撃型のチームだとしても、ある程度のバント練習は必ず行う。「みんな同じことをやりながら、全員がレベルアップするように」という姿勢は一貫している。

勝つことを目指して競争しながら、試合では協力して充実感を

夜間照明の中でノックを打つ東16丁目フリッパーズ・笹谷武志監督【写真:石川加奈子】

 NPBジュニア合格者を次々と輩出してきたが、まだプロ野球選手は誕生していない。笹谷監督はその点について「プロ野球選手を育てるために学童野球をやっているわけではないので」と答えた。「そこは中学、高校の指導者がしっかりやってくれると思っています。僕がやるべきことは、個々の能力を最大限引き出すこと。誰か一人に目をかけてプロ野球選手を育てるという意識はないですね。結果として、なってくれれば、うれしいですけど」と微笑んだ。

 近年は小樽市から通う選手や、ニセコ町から週末だけ参加する選手もいる。意識の高い子どもたちが集まり、全体の8割程度がNPBジュニアのセレクションに挑戦するという。チームの名声が新たな人材を呼び込み、さらに競争を生む好循環ができあがっている。

 笹谷監督の指導の根幹にあるのは「勝つことを目指して子どもたちが競争しながら、試合では協力して充実感を味わってほしい」という思い。「そのためには練習も厳しさも必要。その中で勝つことの楽しみ、目標を達成した時の充実感を味わってほしいです」。

 勝利と育成を両立させながら、その年ごとの「めぐり逢い」を大切にしたチームづくり。子どもたちが野球を通して学ぶのは技術だけでなく、仲間と協力する姿勢や、努力を積み重ねて結果を出す喜びでもある。フリッパーズの姿は、学童野球の1つの理想形を示している。

■東16丁目フリッパーズのキャッチボールの様子はこちら

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