男子以上の一体感は“諸刃の剣”? 特別視に嫌気も…「感度が高い」野球女子の育成術

文:田宮三知 / Michi Tamiya

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東京の選抜チーム・オール葛飾アイリス監督が語る女子小学生の“トリセツ”

 学童の登録者数が減少するなど野球離れが深刻な中、女子野球は競技人口が増加傾向にあり、全国的に硬式野球部やクラブチームが誕生するなど“次世代スポーツ”として注目を集めている。今夏の「NPBガールズトーナメント」に出場した東京の女子小学生選抜チーム「オール葛飾アイリス」の西村光輝監督は、女子野球の魅力について、「チームに対する選手の心の強さと、ノーサイド精神にある」と語る。所属チームの異なる小学2年生から6年生の女子選手をまとめる西村監督に、女子選手へのアプローチ法について教えてもらった。

 普段、男子選手主体のチームに所属することの多い女子選手は、低学年では“お姫様”扱いされるケースもあるが、高学年になるほど孤独を感じたり、反対に特別視されることに嫌気がさしたりすることも少なくない。結果、女子選抜チームで全国出場を叶えても、中学では野球を続けず他のスポーツへ転じてしまうことも多いという。だからこそ、西村監督は少しでも多くの選手に、野球を通じて自身の成長を実感し、奥深さと仲間の大切さを知ってもらえるよう指導を続けている。

「女子選手ならではのアプローチ法というわけではないと思いますが……」と前置きしたうえで、「男子は恥ずかしいという感覚はあまり持たない。しかし女子は自分がどう見られるかということへの感度が高い」と西村監督は分析する。

 例えば、相手チームが気持ち良い挨拶をしていたり、道具をきれいに整理整頓したりしていれば、試合中でもベンチの中で積極的に選手たちにそのことを伝えていく。「道具を揃えなさい」という直接的な指導より、「ちょっと自分たち、恥ずかしいな……」と感じてくれるほうが、女子は成長につながりやすいからだ。

「プレーはもちろん、相手チームのいいところは全部褒めます。反対に相手チームも、よくこちらを見ているなと感じることが女子野球では多く、相手の監督やコーチが褒めてくれることもたくさんある。女子野球は指導者同士も仲が良いですし、関係者全員で全体を見守り、お互いを応援するノーサイド精神があります」

 もちろん中には、指導者がいくら気づきを与えても、キャッチできない選手もいる。その場合は、「チームメートを介して、“耳の痛い”話をしてもらうこともある」と西村監督。

「普段、選手が誰と仲良くしているかを把握しておき、話し方やタイミングに気をつけながら、なるべく優しい言葉で伝えてもらうようにします。やはり、仲間から言われたほうが、大人に言われるよりも深く届く印象ですね」

キャプテン=「縦や横の選手同士のつながりをスムーズに持てる子」

明るくも真剣に練習に取り組むオール葛飾アイリスの選手たち【写真:高橋幸司】

 西村監督は「女子選手の一体感は、男子選手とは比にならないほど」とも話す。一般的に集団の中では、目的や目標が曖昧だったり指導管理が不足したりしていると、グループ化や分断が起こりやすい。普段は別のチームに所属し、学年もバラバラ、活動も限定的な選抜チームを、どのようにまとめ上げているのだろうか。その鍵を握るのはキャプテンの存在だ。

「表現は難しいですが、求心力の有無が重要。その子がひと言発したら、周りが付いてくる状況があるかどうか。目線が自分中心でなく、仲間への掛け声が自然に積極的に出る子を、キャプテンにします。今年のキャプテン(栗原あかり選手)は、これまで監督をしてきた中でも最も理想に近い。縦や横の選手同士のつながりをスムーズに持てる子なので、同学年だけでなく低学年の子たちが自然と集まり、時には彼女を“取り合って”いますよ」

 とはいえ女子チームの一体感は、時に諸刃の剣になることも。「基本的におしゃべり好きが多い」ことから、盛り上がりすぎて休憩から練習、試合への切り替えがうまくいかないこともある。また、男子と比べるとモチベーションの維持が難しく、立ち直りに時間かかりやすい傾向もあるそうだ。

 そのため西村監督は、試合中も6回のタイム機会を全て使い切るほど、積極的にコミュニケーションをとるようにしている。「大した話は特にしません。前日に見たYouTubeの話をすることもありますね(笑)」。目的は、嫌な流れを生まないために“いかに素早く空気を変えるか”。試合中のミスを引きずる選手がいた場合は、どんなに主力でもすぐ交代させる。

「不思議と、交代で出場した選手が活躍したり、他の選手が奮い立ったりして、全員でチーム力を見せてくれることが多いです。そういったところが、女子選手の心の強さ。だから練習中から意識してメリハリをつけるようにしています」

 ベンチに下げられ落ち込む選手へのフォローも忘れない。「いくら声をかけても本人の気持ちが落ち着かない場合もある。そんなときは、保護者にご協力いただき、失敗は仕方がないということ、同じミスが起こらないよう、次はこういう練習をしてその部分を埋めよう、という前向きな話をし、共通意識を持って次の成長への一歩を後押しするようにします」。

オール葛飾アイリスの西村光輝監督【写真:高橋幸司】

 日ごろから、選抜チーム参加のために、選手の保護者や所属チームの監督との連携をとり、2021年には普及イベント「葛飾女子野球の日」の開催に協力をするなど、西村監督は地域の女子野球発展に尽力してきた。オール葛飾アイリスでは、全国大会に向けておそろいのグッズ制作を手掛けるなど、選手の心を1つにするためのさまざまな工夫をしている。

「チームで仲間意識を持ってもらいたいと思って制作していますが、それを目にした女の子たちが『かっこいい!』『私も野球をやってみたい』と思ってもらえたら、うれしいですね」

 女子野球指導者として携わり始めて10年、その魅力にどんどん引き込まれているという西村監督。「一人でも多くの女子選手に、長く楽しく野球を続けてもらえれば」と願い、これからも創意工夫を続けていく。

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